多摩動物公園の育雛舎で、アカガシラカラスバトが2つのペアで自然繁殖し、2019年8月と9月にあいついでひなが巣立ちました。
都立動物園では小笠原諸島に生息する日本の固有亜種であり、絶滅危惧種のアカガシラカラスバトの保護増殖事業に取り組んでいます。これまで繁殖技術の確立と個体数の確保のため、孵卵器による人工孵化や、飼育係がひなを育てる人工育雛を取り入れながら個体数を増やしてきましたが、次の課題は、飼育個体群の遺伝的多様性の向上と自然繁殖ができるペアづくりです。
そこで多摩動物公園では、これまで繁殖していない野生保護個体でペアづくりを試みるとともに、親鳥が卵を温めて子育てをする「自然繁殖」に取り組むことにしました。
今年3月から、2013年に保護されてまだ繁殖に成功していないメス#102を、自然繁殖の経験をもつオス2羽と同居させ、メスに相手を選ばせることにしました。するとメスはオス#112とペアになり、地上のよしずに囲われた巣で5月7日産卵し、雌雄交代で抱卵するようになりました。
ところが5月28日、メスは地上の巣とは別の巣箱でもう1羽のオス#80と互いに羽づくろいをし、交尾をしました。抱卵中の卵が無精卵だったこともあり、先にペアになっていたオス#112は、別のメス#147のいる隣の部屋に移動させ、オス#80とメス#102の2羽だけを残しました。
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#80(オス)と#102(メス)のペア 左:産卵が見られた 右:親鳥による給餌中。1週齢 |
その後、巣材運びと交尾が頻繁に見られ、6月5日に産卵しましたが無精卵でした。7月4日に産んだ次の卵も無精卵でしたが、8月1日に産卵した3回目の卵は有精卵となり、8月20日にひなが誕生しました。夜間はメスが、日中はオスがひなを抱き、えさを与えます。ひなは親鳥のくちばしの中に顔をつっこみ、親が吐き出すえさをもらいます。
ひなは順調に生育。9月16日の夕方、巣箱から出ていきました。その後しばらく巣箱と外を行き来する生活が続きました。メスは次の繁殖に向けて地上の巣にいるようになり、オスは巣材運びとひなへの給餌を同時にこなしていました。9月29日にはようやくヒナが終日外にいるようになり、えさを自分で採食する姿が確認できました。
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#112(オス)と#147(メス)のペア 左:9日齢、中:15日齢、右:巣立った幼鳥に採食行動が見られた |
一方、隣の部屋に移動したオス#112は、メス#147と同居することになったのですが、この2羽はともに人工育雛で育ったハトです。2羽はうまくペアになり、2回目の卵が7月24日に孵化して、やはり日中はオスが、夕方から朝まではメスがひなの世話をしていました。しかし巣立ち間際になって、メスが巣に戻らなくなり、ひなへの関心をまったく失ってしまいました。ただ、オスがえさを与えていたので、人工給餌を併用してようすを見ていたところ、8月28日の夕方、ひなは巣箱から出ていき、翌日の朝にはオスと並んで止まり木に止まっていました。オスと一緒にえさをついばむようすも確認できました。人工育雛どうしのペアが自然繁殖したのは初めてです。
今回、野生保護個体メス#102が初めて繁殖したこと、そして2つのペアで自然繁殖が成功したことは大きな前進となりました。
〔多摩動物公園野生生物保全センター 小島善則〕
(2019年10月11日)