ニュース
「令和」を迎えて──多摩動物公園と万葉集、そして次の60年へ
 └─2019/05/03

 5月1日に元号が「令和」となりました。この機会に動物園のこれまでとこれからについて考えたいと思います。

 多摩動物公園の歴史は『多摩動物公園50年史』に詳細な記録がありますが、東京公園文庫『多摩動物公園』(中川志郎著)には新元号の出典「万葉集」に関連した一節があります。

 歌集の巻第二十の「あか駒を 山野に放し 捕りかにて 多摩の横山 徒歩行かやらむ」という歌について、著者はこう書いています──「『多摩の横山』が正確にどこをさしていったかは定かではないが、おそらく今日の多摩丘陵全体の総称であろう。(中略)こうして見ると、多摩動物公園をとりまく自然環境は、古来、万葉の時代から現在にいたるまで、丘陵と平野、丘と谷、植物と動物の自然の調和のなかで生きつづけてきたことを知るのである。(中略)かつて『自然動物園』と呼称され、現在でも『多摩動物公園』と呼ばれるように、動物と自然との調和を目指したのはけだし当然であった」。

 近年、多くの動物園では動物舎の植栽や水辺などを工夫し、生息地に模した環境を作るなど、飼育動物がいきいきと過ごすことを目指しています。さらに表示サインや解説などによって、来園者が生息地の知識を得ることもできるでしょう。


「みはらし広場」からの景色

 しかし、動物園がどのような場所であったのか、その地形や水環境を活かしてどうやって展示を実現しているかについて知る機会はあまりないと思います。多摩動物公園は旧七生村にあった多摩丘陵の中腹に位置し、開設にあたって地元や多くの関係者の協力があったことは、昨年の記事でもお伝えしました(「多摩動物公園開園60周年の歴史を垣間見る」)。園内のオーストラリア園の先にある「みはらし広場」はもっとも高台に位置し、ここから見える景色は万葉の歴史の流れに思いを馳せることができるひとつだと思います。


新たなアジアゾウ舎

 さて、多摩動物公園は2019年5月5日に61周年を迎えますが、現在大規模な工事が続いています。新たなアジアゾウ舎は動物公園エリアのもっとも大きな「谷戸」(【やと】低地。たに。また、低湿地[大辞林第3版より])にあります。アジアゾウが本来すむ場所とは異なりますが、水辺も含めた広大な施設で動物がゆったりと過ごすことができる施設となる予定です。また、ライオンやキリンを展示するアフリカ園も大規模改修中ですが、地形や近くの樹木を活用した施設です。

改修中のライオン園
アフリカ園サバンナも改修中

 ヒトの60歳は十干十二支が一巡する「還暦」としてお祝いをしますが、私たちは「還暦」から次の60年に向けて、動物園の取り組みを着実に進めています。施設更新のために多くの来園者にご不便をおかけしていますが、飼育担当者は従来通り野生動物の飼育繁殖や展示に取り組み、国内外の関係者と連携した野生動物保全の取り組みを進めています。

 「令和」の時代を迎え、今後とも多くの方々に、動物園の成り立ち、生物の多様性の大切さ、園内の自然の樹木や植栽の工夫など、動物園の持つ魅力を伝えていきたいと思います。

〔多摩動物公園長 渡部浩文〕

(2019年05月03日)


ページトップへ