今までの個体を見ていて気づいたのは、飼育開始当初は人を怖がらないのに、一定期間が経つと怖がるようになることです。体長が2センチしかない彼らにとって、人間は大きすぎて外敵という概念すらないようで、自分がくらしている飼育ケースに入ってきて作業をする「手」をひとつの生き物というような認識で見ているようです。ピンセットで糞を取ったり、餌皿を交換したりする「手」が自分たちに影響力を持っていることを知ると、作業時に怖がって姿を見せなくなるようなのです。
しかし、最初のうちは警戒心がないので、むしろ作業時に興味をもって現れ、ピンセットの先に触れたり、手のにおいを嗅ぎにきたりします。ためしに手のひらを差し出してみたところ、においを嗅ぎながら躊躇なく乗ってきました。そこで、毎日の作業時に同じオス1頭を手のひらに乗せるようにしました。人(手)に慣らすことでどんなメリットとデメリットがあるのかを調べることにしたのです。
手乗りにした個体とそれ以外の個体との差は明らかでした。手乗りくんは作業時に怖がることなく出てきますが、他個体は10日ほどであまり姿を見せなくなりました。試しに手乗りくんを展示に出してみたところ、明らかに過去の個体とは違う伸び伸びとした動きが観察されました。作業する手に慣らすことで恐怖心がなくなり、展示効果が上がるというのは意外な収穫です。今も手乗りくんを展示水槽に出しているので、清掃後に手のひらに乗せているところを見られるかもしれません。 | 手のひらに乗るトウキョウトガリネズミ |