多摩動物公園の昆虫生態園には現在約20種のチョウが放されています。その中の一種、リュウキュウムラサキを飼育下で繁殖させながら世代を繋ぎ、初めて一年を通して継続飼育することに成功しました。成功にいたるまでにはさまざまな試行錯誤がありました。
リュウキュウムラサキ成虫(オス)
リュウキュウムラサキは第2世代、第3世代になると幼虫が死に始め、世代が絶えてしまうと先輩方から聞きました。私が引き継いだのはすでに第3代目。時間はありません。とにかく原因を探ることにしました。
まず、なにか栄養素などが不足しているのではと考え、成虫に肉食獣用の馬肉から出た血液を与えてみました。蜜を与える要領で、口を血液に触れさせて吸わせました。チョウに血?と思われる方も多いと思いますが、タテハチョウのなかまは死んだトカゲなどの体液を吸うこともあります。
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幼虫 | 蛹 |
食草(幼虫のえさとなる植物)として与えているサツマイモの葉が合っていない可能性も考え、ヒルガオやスズムシソウでも育ててみました。さらに、モンシロチョウの飼育方法を参考に20℃での飼育も試みました。モンシロチョウは夏になると病気による死亡率が高くなるため、やや低温の20℃で飼育管理しているのです。さらに、アゲハ類ではプラスチック製カップに1匹ずつ単独飼育をすると病気にかかりにくいので、リュウキュウムラサキでも試してみました。
しかし、いずれの方法も従来の飼育方法と大きな差はありませんでした……。しかし、失敗は成功のもと。結果は結果として役立つはずです。
試行錯誤しながら飼育を続けた結果、第4世代が誕生しました。1世代の長さは40日から50日ほどです。結局、意外なことに世代は繋がり、2018年12月には1年間継続して飼育することができました。
世代の絶える理由がわからないままだったので、ひやひやしながら飼育を続けていましたが、振り返ると良かったかもしれない点があります。それは採卵数を増やしたことです。リュウキュウムラサキの飼育担当になったとき、幼虫の数は28匹でした。これを100匹近くに増やすため、親が産み付ける卵を積極的に採卵しました。検証が必要ではありますが、多数の幼虫が基礎となり、遺伝的な多様性が維持され、幼虫の死亡率も減った可能性もあります。こうした経緯をふまえ、今も数匹の親から採卵をしています。
しかし幼虫の食べるえさの量は相当なものでした。幼虫の数が増えることを見込んでサツマイモ畑の栽培面積を増やしてあったのですが、それでも約4分の1を使い切ったときはどうしようかと思いました。しかし、充分な量の食草を用意したことで、幼虫の飼育数も増やすことができました。
昆虫生態園は昨年(2018年)、開園30周年を迎えました。リュウキュウムラサキをはじめ、さまざまな美しいチョウ、そして多様な昆虫たちががみなさんをお待ちしています。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 田村隼人〕
(2019年02月08日)