動物の名前には、西欧の伝説上の生物であるドラゴンの名がつけられた生き物が多くいます。このたび、多摩動物公園の昆虫園にドラゴンがやってきました。その正体はキリギリスのなかま「ドラゴンヘッドキリギリス」、学名は
Lesina (Ellatodon) blanchardi。昆虫園では初展示です。
ドラゴンヘッドキリギリスは東南アジアなどで報告されています。成虫の体長は約8センチ、前胸背板には複数のトゲが生えており、名前のとおり恐ろしげな風貌ですが、性格はむしろ臆病です。
昆虫園で海外の昆虫を輸入し、飼育展示するには数か月前から準備を始めます。まず、輸入と飼育の許可申請です。海外の昆虫は国内の農作物や樹木に大きな被害を加える恐れがあるので、原則的に輸入は法律により禁止されています。しかし、試験研究や公共施設における展示など、特別な場合にかぎり、農林水産大臣から輸入の許可を受けられます。管理場所の基準なども厳格に決められており、申請書類の作成後、植物防疫所に提出して許可を得るまで1か月以上かかります。
次は、輸入する昆虫に関する情報収集です。海外の昆虫は生息環境や飼育方法などわからないことが多いため、飼育経験がない場合、昆虫が無事に到着してもすぐに死なせてしまう恐れがあります。そのため、国内で飼育経験のある施設に問い合わせたり、海外の文献を探したりして情報を収集します。さらにインターネットの検索画像を活用し、画像背景から生息環境を推測して飼育方法を模索します。
2018年11月14日、ドラゴンヘッドキリギリス8匹が無事に昆虫園に到着しました。翌日から成虫の展示を開始したところ、翌日には展示ケース内で交尾し、産卵床のバナナの木をかじり始めました。
名前のインパクトとは裏腹に、可愛いらしく不思議な姿をした「昆虫園のドラゴン」を昆虫園本館2階の「外国産昆虫コーナー」までぜひ見にお越しください。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 杉田務〕
(2018年11月30日)