「ケラ」という虫を知っていますか? 「手のひらを太陽に」(作詞:やなせたかし、作曲:いずみたく)の歌詞の中にミミズやアメンボとともに出てくる「オケラ」と言えば「あ~知ってる」という方も多いでしょう。
ケラ成虫
でも、実物を見たことがある人はそんなにいないかもしれません。それもそのはず。田畑などの地中に巣を掘り、おもに地面の下でくらしているのでふだんあまり目にすることがありません。コオロギのなかまですが、姿形はコオロギよりも「モグラ」に似ています。土を掘るときによく使う前脚はモグラの前足のようなシャベル型をしていますし、体もモグラと同様、ビロードのような細かい毛で覆われていて汚れがつきにくくなっています。
そんなケラですが、よく目にするチャンスは年に2回あります。まず1回目は春先におこなう田んぼの代掻き(しろかき)の時期です。冬のあいだ干上がらせていた田んぼに水をはると、溺れまいとするケラが土の中からピョコピョコ出てきます。ビロード状の毛が水をはじき、前脚をじょうずに使って泳ぎます。
2回目は9月から10月頃の秋口に、新成虫が新天地を求めて飛ぶ時期です。新成虫の中には翅が長く、よく飛ぶものがいます。今の時期、夜の街灯など光に引き寄せられて飛んでくるところを目にするかもしれません。
都内ではあまり田んぼは見かけませんが、池の「かいぼり」(冬の間に水を抜き、魚等を保護した後、春に水を入れる)をおこなっているところもあるでしょう。多摩動物公園で展示しているケラは井の頭自然文化園で採集したものです。池の水を抜いていた「ため池」に水をはる際、出てきたものを捕まえました。
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ケラの卵 | ケラ若齢幼虫 |
ケラは昆虫生態園出口付近、ダンゴムシ展示の隣で展示しています。土ではなく、湿らせた水苔の中で飼育しており、えさはカブトムシなどに与える昆虫ゼリーとニンジン、ネズミ用ペレットです。この中で卵を産み、子どもも大きく育ちます。しかし、水苔の中だとなかなか姿をご覧いただけないので、寒天も使って展示しています。運がよければ、ケラが前脚を器用に使って寒天の中を掘り進めるようすが観察できるかもしれません。
【動画】寒天の中を掘り進むケラ
土の中でくらすのに、泳ぐことも飛ぶこともできるスーパー昆虫、ケラ。水陸両用のその姿を多摩動物公園でぜひご覧ください。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 佐々木愛子〕
(2018年10月10日)