多摩動物公園で2018年6月29日にチンパンジーのオス「ケンタ」が死亡してから早いもので3か月以上が経ちました(
2018年7月2日記事)。
ケンタは1998年、チンパンジーの群れの第1位オスになりました。それから約20年にわたり、ケンタは多摩のチンパンジーの群れを守り続けてきた偉大な個体でした。
私がチンパンジーの飼育係になった2015年、ケンタはりっぱに第1位オスを務めていました。もっとも印象に残っているのは喧嘩の仲裁です。ケンタはつねに、離れていてもあらゆる状況を見ていました。いざ喧嘩が始まるとすぐに駆けつけ、悪さをしたチンパンジーを叱りつけるのです。このときのケンタはとても頼りがいがあるように見え、チンパンジー社会の第1位オスとしてのあり方を見せてくれました。
メス「ペコ」に夢中になっているケンタ
小さい「フブキ」と遊んでやっているケンタ
ときにはお気に入りのメスに夢中になり、事の経緯を知らないまま、悪くない個体を叩いて、逆に追いかけられることもありましたが、それはそれでケンタの愛らしさでもありました。
2016年冬頃からケンタが別のオス「ボンボン」に力でかなわなくなってからも、私たちはケンタを群れに残しました(
2017年1月27日記事)。第1位を巡る争いに負けたからといって、群れからケンタを離せば、群れで生活するチンパンジーには逆に負担になるかもしれないと考えたからです。
群れに残ったケンタは、ボンボンに対して劣位の挨拶(自分が下の順位であることを示す行動)をしたり、ボンボンとお互いに毛づくいをするなど、ケンタなりにこの群れで生きていけるように努めていました。私たちもケンタに負担がかかり過ぎないよう気を配り、ときどきケンタの気分転換になるよう、ボンボンとは別の運動場に出したり、お気に入りのメスと同居させたり、ケンタの心のケアに努めました。
そんなケンタも2017年に白内障にかかり、動きも以前と比べると緩慢になって老いを感じることもありました。食欲が落ちてやせてきていましたが、2018年6月頃から食欲が上がり、活動的になってきたので、ケンタはまだまだ長生きすると考えていました。
ケンタのあとを継いだボンボンを見ていると、母親が群れの争いの火種になっても見て見ぬ振りをするなど、まだまだ第1位オスとしてケンタには到底およばないようです。ケンタのおかげで多摩動物公園のチンパンジーたちは安心してくらせていたと思います。偉大なる第1位オス、ケンタの功績をあらためて感じています。
〔多摩動物公園北園飼育展示係 田口陽介〕
(2018年10月05日)