多摩動物公園では、室内での人工飼育のほかに、園内の水が湧く場所を利用して野外に流れを整備し、ホタルをはじめとした身近な水辺の生物がすめる環境づくりをおこなっています。今年もその水路で無事ゲンジボタルの羽化が始まりました。
これだけなら例年通りなのですが、今年は長らく飼育してきた前任職員から経験の浅い私が引きついだため、内心ドキドキしながら羽化を待っていました。
というのも、ゲンジボタルは冬を越した幼虫が、4月から5月の雨の日に水中から上陸して地中で蛹になり、6月に羽化して成虫になるのですが、今年の4月は例年より平均気温が2~3℃も高く、多摩地域では上旬に雨が多く降りました。逆に月の後半から5月はあまり雨も降らず、気温も低い日が多かったため、雨の日しか上陸しない幼虫たちが例年より早く活動を開始し、5月上旬には羽化してしまい、6月にはもういないのではという一抹の不安があったからです。
羽化後、葉裏で夜を待つ若いゲンジボタルのオス
毎年6月にホタル関連のイベントを企画している昆虫園として、その状況は非常にまずい……と思っていたのですが、いざ羽化が始まってみると、初めて確認できた日はほぼ例年通り(6月2日)でした。ゲンジボタルは多少の気候変動には職員ほど動じないのかもしれません。
羽化を確認して安心したのもつかの間、これからは室内で飼育している展示用のゲンジボタルの採卵や、幼虫の飼育、野外のゲンジボタルが暮らす流れの手入れなど、本格的な飼育管理が始まります。あまり来園者の方の目に触れる部分は多くはありませんが、またよいニュースがお知らせできるよう、来年に向けた準備をひとつひとつ着実に進めていきます。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 渡辺良平〕
(2018年06月08日)