多摩動物公園では希少動物であるソデグロヅルの繁殖に力を入れています。その取り組みの一つが人工授精です。人工授精とは、人の手でオスから精子を採取し、メスに注入することで有精卵を産ませる技術です。ペアがうまく交尾できない場合や、ペアのオスが死んでしまった場合などに利用しています。
人工授精によって今年(2017年)は2羽のソデグロヅルが孵化しました。しかし、育てているのは「実の親」ではありません。2羽のうち1羽はオスに先立たれたソデグロヅルのメスが育てており、もう1羽はタンチョウのペアが面倒を見ています。産卵した母親よりも、子育て経験のあるメスに任せた方がよいと判断したのです。卵は孵化する前に、「育ての親」に渡して抱卵させました。
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孵化翌日のひな | ひなにミールワームを与えるソデグロヅルのメス |
現在子育て中のソデグロヅルのメスは、過去にも自分だけでひなを育てたことがあったため、卵の孵化や世話もスムーズでした。孵化の翌日、このメスはミールワームをくわえ、ひなの口元へ持って食べさせ、3日目にはアジをクチバシで振り回し、細かくしてから与えていました。細かいえさに比べれば親のくちばしは大きいのですが、えさを非常に器用にあつかっていました。
ソデグロヅルのひなを育てるタンチョウのペア
タンチョウのペアは、以前もソデグロヅルの卵を抱かせてうまく育てさせたことがあります。今回はそれを期待してまかせました。その結果、今回も自分たちで温めた卵が孵化すると、なんの疑いもなくソデグロヅルのひなを育てています。
このように、希少動物を増やすために、人工授精をはじめ、さまざまな工夫をおこなっています。しかし、本来は人の手を加えることなく、自然に繁殖することが望まれます。
そこで今年は群れの中でペアが増えるよう巣材となるワラを大放飼場に入れたところ、新しいペアが誕生。しかも産卵まで見られるようになりました。今後はこのペアの自然繁殖を目指すとともに、人工授精の可能性もつねに考慮しながら、ソデグロヅルの繁殖管理に取り組んでいくつもりです。
〔多摩動物公園南園飼育展示係 志田昌信〕
(2017年07月14日)