多摩動物公園の「みはらし広場」ではワライカワミとアオバネワライカワセミを展示しています。アオバネワライカワセミはワライカワセミに比べやや小型で、名前のとおり、羽の青さが目立つきれいな鳥です。
アオバネワライカワセミは、くちばしに餌をくわえ、いやというほど止まり木などに叩きつけてから食べます。叩き過ぎが原因だと思いますが、上嘴(じょうし)の先端と、くちばし中ほどの縁が少しずつえぐれてきました。まだ、骨までは露出していませんが、このままでは危険なため、治療に取りかかりました。
くちばしに穴を開け、人工的な素材で作ったくちばしを装着する方法は、これまで各種の鳥類で試していますが、穴を開けた部分が徐々に大きくなり緩んでしまうため、今回はくちばしを削らずに治療することにしました。
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治療前 | 治療後 |
まず、エポキシ樹脂で埋めてみました。経過良好でよいと思っていたのですが、残念ながら10日ほどで取れてしまいました。ここからアオバネワライカワセミとの戦いが始まりました。
そもそもくちばしは骨そのものではありません。骨を角質(ケラチン)が覆っています。角質部分の代謝によってエポキシ樹脂が取れてしまうのかと思いましたが、脱落したものを確認すると、くちばしの成分は認められず、ただ接着剤がはがれたようでした。
光重合レジンを使って治療 そこで接着剤をいろいろ試しているところです。充填するパテとして現在、歯医者さんで治療に使う「光重合レジン」を使っています。歯医者さんで虫歯を穴を埋めるとき、青い光をあてると固まる素材が光重合レジンです。短時間で固まるので、動物にも負担がかからず、便利な材質です。ただ、くちばしとの相性が思わしくなく,これも10日くらいで脱落してしまいます。そこで今は光重合レジンと伸縮性テープ、各種の瞬間接着剤を組み合わせて強度を確認しているところです。
見た目も重要なので、絵心のある職員に頼んで、くちばしに色を塗ってもらいました。簡単にはわからないほどの見た目になりました。
暑い時期の治療なので、エアコンの効いた車の中で治療をしたり、保冷材の入った輸送箱に入れて病院に運んで治療をしたりています。今のところ接着後2週間が最長記録なので、次の脱落を想定し、動物病院ではさまざまな方法を検討中です。
〔多摩動物公園動物病院係 田坂清〕
(2016年09月30日)