多摩動物公園の見どころのひとつは、豊かな自然の残る園内でのびのびとした動物の姿が見られることです。自然が豊かということは、そこにさまざまな昆虫も生息しており、昆虫園ではその恩恵にあずかって、採集した昆虫などの生物を展示しています。
今年は、日本最大級のカミキリであるシロスジカミキリや、緑色のコカマキリ(ふつうは褐色ですが、まれに緑色が出現します)、昆虫園裏に大量発生したヤスデのなかまなどを採集し、昆虫園で展示してきました。
園内で採集されたアカマダラハナムグリ
そんな身近な昆虫の展示コーナーに、標本ではありますが、ちょっと珍しい虫、アカマダラハナムグリが登場しました。赤褐色に黒色のまだら模様をもつ、体長2センチほどの甲虫です。
6月下旬に園内で採集されたこの虫は、なかなか見つからない虫として知られ、全国的に個体数の減少が心配されています。東京都では23区内は絶滅したとされ、多摩地域でも生息地は多くないと考えられます。採集した個体は11月初めに死亡してしまいましたが、アカマダラハナムグリは希少性だけでなく、その変わった生態が近年注目されているので、標本として展示することにしました。
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アカマダラハナムグリを採集した多摩動物公園内の林 | 多摩動物公園のコウノトリの巣。アカマダラハナムグリの幼虫が利用することが近年発見された |
アカマダラハナムグリの幼虫は、鳥の巣内で成長することがここ10年ほどで明らかになりました。これまでにハチクマなどのタカ類やコウノトリ、ハシボソガラスなどの巣で確認されています。多摩動物公園では、イヌワシやコウノトリ、トキ類が飼育下で営巣しており、もしかするとそのような鳥の巣で幼虫が育っているのではないかと、ひそかに期待しています。
先日、コウノトリとクロトキの巣の中を探してみましたが、残念ながら発見にはいたりませんでした。昆虫園では、アカマダラハナムグリが利用する鳥の巣をイメージできるよう、園内のクロトキが使い終わった巣もお見せしています(クロトキの巣からアカマダラハナムグリは確認されていません)。
アカマダラハナムグリの園内での発見は、多摩動物公園の自然の懐の広さを知る機会となりました。自然に囲まれてのびのびと過ごす動物の足もとには、アカマダラハナムグリだけでなく、興味深いくらしを営む昆虫が他にも隠れているかもしれません。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 田中陽介〕
(2015年11月13日)