ニュース
アジアゾウ飼育係の「包丁さばき」
 └─2015/09/18

 動物を飼育する時、大事な仕事のひとつに「えさの準備」があります。動物の種類によって、当然えさの種類も量もさまざまです。

 私が担当しているアジアゾウは、1頭あたり1日に100キロ近いえさを食べます。小型の動物の場合、食べやすい大きさに飼育係が切ったりするのですが、ゾウの場合はどうでしょうか。

 ゾウはリンゴ程度の大きさのえさなら、鼻でつかんで一口で食べてしまいます。キャベツも小さめならそのまま口に入れてしまいます。ゾウではえさを切る必要はない──そう思われるかもしれませんが、けっしてそうではありません!

 ゾウのトレーニング用のえさを用意するとき、飼育係には包丁さばきの腕が必要になります。トレーニングの「ごほうび」として与えるのはリンゴ、バナナ、ニンジン、パンなど、基本的に草以外のえさです。これらを小さく切るのですが、その総量は1日分で約30キロにもなります。


 じつは私は今まで包丁を使う機会がそれほど多くありませんでした。しかも、ゾウのえさ準備に使う包丁は家庭で使う包丁とは別物で、刃渡りが30センチもあります。慣れないうちは1時間では終わらず、作業時間の多くをそこに費やしてしまいました。包丁を扱い慣れている先輩に比べると、切る量は同じなのに20~30分も多くかかってしまい、その後の作業に影響してしまうことも……。


 えさを小さく切る理由は大きくわけて2つあります。ゾウのトレーニングでは、こちらが望む行動をゾウがしたとき、褒めながらえさを与えます。その行動を継続しているあいだはたえずえさを与えることになるため、えさが大きいといくらゾウでもすぐにお腹が一杯になったり、食べるのに時間がかかったりして、ゾウがトレーニングに集中できません。

 また、えさはゾウが取りやすい場所に投げてやります。そのとき、こちらが思ったとおりの場所にえさが行くよう、あまり転がらない形に切っておきます。こうした理由で、ゾウの担当者にも包丁を扱う技術が必要になるのです。

 自分の包丁をしっかりと砥いでおいたり、少しでも時間が早くなるように特訓を続けた結果、ようやく先輩たちと同じくらいの時間で切れるようになりました。これからトレーニングのメニューが増えると切るえさも増えるので、さらなる技術向上が必要です……。

 飼育係の仕事の一つとして、えさの準備のためにおこなっている工夫をご紹介しました。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 伊藤達也〕

(2015年09月18日)


ページトップへ