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骨折したヒナコウモリの治療と展示
 └─2015/04/17

 今年(2015年)1月3日、前腕を骨折したヒナコウモリが多摩動物公園に運ばれてきました。

 東北地方で多く見られるヒナコウモリは、夏が過ぎると南下し、東京でも越冬するといわれていますが、その生態はわかっていないことのほうが多い謎めいた種です。

 かれらは春の暖かくなる時期まで冬眠をし、暗い樹洞だけでなく、私たちが住んでいる家を選んでひっそりと眠っていることがあります。みなさんも雨戸や屋根裏にコウモリがいたという経験があるのではないでしょうか。この保護されたヒナコウモリも冬眠中でしたが、不運にも動いて来た扉にぶつかり、骨折してしまったとのことでした。


レントゲン写真。前腕を骨折している

 動物病院で麻酔をかけ、骨を固定する手術をおこないました。骨折部分を安定させるために骨髄にピンと呼ばれる棒を挿入するのですが、前腕の長さが4センチしかないこのヒナコウモリには、病院にある一番細い針を使用しました。


入院中のヒナコウモリ

 手術は無事終了しましたが、骨の形成を促すためにも冬眠していたコウモリを無理やり起こして代謝を上げる必要があります。そこで、暖かくした保育器に手製の飼育箱の中を入れ、その中で治療することにしました。入院中は、ミールワームをえさとして与え、採食量や体重、骨の治癒過程を追っていきました。

 そして1か月後、骨の癒合を確認し、骨を固定していた針を取り除きました。骨折していた腕も使って飼育箱を登るようになりましたが、飛ぶまでは回復できませんでした。飛べなくては野生に戻すことはできません。

 そこで、多摩動物公園のウォークインバードケージ入口にて1匹で展示されているヒナコウモリに仲間入りさせたところ、展示箱に入るやいなや先住ヒナコウモリに近寄っていきました。多くのコウモリ種は、集団で寄り添って生活しているためでしょうか、ひとりがよっぽど“さびしかった”のかもしれません。しかし、先住ヒナコウモリは新入り個体に対してすぐに威嚇、攻撃を加え、先が思いやられる同居となりました。


展示中のヒナコウモリ。2匹が寄り添っている。向って左が入院していた個体

 数日後、2匹のヒナコウモリが寄り添っている姿を見て安心しました。これで本当に退院ができたと感じています。

〔多摩動物公園動物病院係 鳥居佳子〕

(2015年04月17日)


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