トナカイたちにとって厳しい暑い夏がようやく過ぎました。そして、今年も9月に入り、トナカイたちの角の皮がむけて、白い角があらわになりました。それまで皮の下に流れていた血液が止まり、角の成長が止まると、弾力のあった皮が破ける「破角」が始まります。
それとともにトナカイは発情期に入ります。そして、飼育係はオスの「サク」や「イコロ」と同じ空間に入ることをやめます。相手がメスなら大丈夫なのですが、オスは角で攻撃してくるからです。
破角する前はサクもイコロも穏やかで、飼育係がそばにいても、攻撃されることはありません。ところが、破角と同時にオスたちの性格は一変します。
オスは全神経をメスに集中させ、メスにぴったりついて行動するようになります。メスが歩けばオスも歩き、メスが座ればその横にオスも座り、といった具合です。また、「ブホブホ」と興奮気味に鳴きます。
担当者が放飼場に入って給餌したり掃除したりするときは、いったんトナカイたち(とくにオス)を寝室に収容して扉を閉めてからおこないます。放飼場の柵に挿してある角とぎ用の枝は、すぐバラバラにされるので、毎日挿し直したり、新しい枝を補充したりしています。
ときには、放飼場に置いてある木製のずっしりした餌箱を軽々とひっくり返してしまいます。その光景は、まさに昭和のスポ根アニメに出てきた、頑固おやじがちゃぶ台をひっくり返すかのごとくです。こうなるとオスはもう手をつけられません。興奮したオスがメスを角で追い払い、メスが逃げ回ることもあります。オスにずっとつきまとわれた(!?)メスが、時折お疲れ気味に見えるのは担当者の気のせいでしょうか。
また、10月後半になると、寝室の中に香ばしいような何とも独特なにおいがするようになりました。発情期にオスの体から発するにおいです。
そんな荒れ狂った時期を過ぎ、冬になればオスの角が根元から自然に落ちることでしょう。毎年だいたい左右のどちらかが先に落ち、一両日でもう片方も落ちます。角が落ちると、オスの性格はまたまた一変します。あれほど強気に荒れていたのはどこへやら、とたんにおとなしくなってしまいます。こうなれば担当者はオスと同じ空間に入ることができます。
季節の変化とともに激変するトナカイたちの生活サイクルは、とても興味深いものがあります。また、トナカイたちの変化から季節の移り変わりを担当者は感じています。
写真上:メスの「マキ」に寄り添うオス「サク」
写真下:角とぎをするイコロ
〔多摩動物公園南園飼育展示係 生井澤初枝〕
(2014年10月31日)
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