先日、昆虫園事務所の棚を整理していたところ、レントゲンフィルムが出てきました。2003年に開催した企画展の際、昆虫の体を覆う硬い皮膚「外骨格」を説明するために、動物病院で撮影したものです。
現在はレントゲン装置もデジタル化していますが、当時はまだフィルムでした。フィルムには対象がほぼ等倍(実物大)の大きさに写ると聞いて、昆虫園で一番大きな展示種だったヘラクレスオオカブトを選びました。
とは言うものの、獣医師がふだん相手にしているのはキリンなど、もっと大きな動物です。小さな昆虫が相手なのでかなり勝手が違うようすでしたが、撮影条件を調整して無事きれいなレントゲン写真が撮れました。
写真を見ると、体を支えている硬くて厚い皮膚が輪郭としてくっきりとわかります。また、頭の角を動かす大きな筋肉も白い繊維状に詰まっているのを見ることができます。
ところで昆虫の特徴のひとつに、体が頭部・胸部・腹部の3つの部分に分かれているということがあります。さらに胸部は前胸・中胸・後胸に分かれていて、それぞれ2本ずつ脚が生えています。また、前翅は中胸から、後翅は後胸から生えています。
ところが、ヘラクレスオオカブトなどの甲虫類を背中側から見ると、前胸と中胸との間がくびれており、まるで胸部と腹部の境目のように目立っています。そのせいで、外見に頼ると「中胸から腹部」が腹部であると誤解してしまうのですが、レントゲン写真はこの点もすっきりと解決してくれました。
角や脚、翅を動かす筋肉が詰まっているのが胸部、腸が詰まっているのが腹部というように内臓が教えてくれます。
長らくお蔵入りしていたフィルムですが、本館2階のエントランスで展示を始めました。新たな視点で昆虫の体のしくみを観察してみてください。
写真上から:
◎ヘラクレスオオカブト側面:体の中に骨はなく、皮膚である外骨格が輪郭のようにくっきりと写っている。
◎ヘラクレスオオカブト背面:胸部の筋肉と腹部の腸がわかる。
◎側面解説
◎背面解説
◎ハツカネズミ背面:体の中に骨があるが、体の輪郭はあいまい。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 田畑邦衛〕
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