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ヨーロッパオオカミの近況
 └─2013/12/13

 2013年4月から多摩動物公園アジアの平原の新施設でのくらしが始まったヨーロッパオオカミのロボ一家。それまでのオオカミ舎よりも広く、平らになった放飼場で走り回り、追いかけ合い、伸び伸びとした姿が見られるようになりました。岩場のような地面から草木が生える土にかわり、木を噛んだり草を食べたり、ときにはバッタやコオロギを追いかける姿も見られています。

 群れの中での個体間のコミュニケーションもよく観察でき、順調な新生活を始められたと思っていた矢先の5月中旬、群れの中で一番地位の高いαメスの「モロ」が入舎時に帰ってきませんでした(ちなみにαオスも存在します)。

 場内を探すと丸くうずくまっていました。その日は何とか部屋へ戻すことができましたが、下あごの内側が腫れて餌をうまく食べられない状態でした。その後の検査で骨肉腫とわかり、完治は難しい症状でした。口の中が腫れていても食欲は旺盛だったので何とか食べられるよう、肉をミンチにして液状にしたり、ペースト状の缶詰を与えたりと試行錯誤をしましたが、一番食べやすい方法は柵越しに小さく切った馬肉を口の中へ入れてやる方法でした。

 体力が低下し放飼場へ出るのは難しくなりましたが、αメスとしての存在を失わないよう、日中は舎内で静養し夜間は舎内で群れと共に過ごす方法をとりました。

 腫れを除去する手術を施してもみましたが、8月17日に死亡しました。人間的な考えではありますが、1頭で静養していた日中ではなく、群れと共に過ごしていた夜間に亡くなったのがせめてもの救いだったように思います。

 片方のα個体を失った群れはどうなっていくのか。野生での例では、別の個体がαの地位についたり、群れが解消したりとさまざまなケースがあるようです。飼育担当者としては、群れの解消は飼育施設の都合上避けたいところですが、それは彼らが決めることであり、人が介入はできません。注意深く観察をするしかない日々です。

 モロの死後、αオスの「ロボ」の元気がないように見えましたが、餌を増やすなどの対応で回復しました。そのほかの個体では、「リロ」(メス)がα的な立場でメスたちを仕切っているように見えます。ロボがαオスとしてオスたちを仕切っていますが、高齢でのんびりしているためか、代わりに2番目の地位であるβオスの「ロイ」が走り回っています。

 小競り合いがありつつも平穏な日々を送っていたのですが、10月初旬に突然オスの「ネロ」が常に怯えた状態になりました。ロイから攻撃を受けていたのです。オオカミをよく観察されているお客さんによると、ネロがメスにマウントしたところをロイに見つかり、激しく攻撃を受けたようでした。通常群れの中で繁殖できるのはα個体のみといわれていて、ネロはそのルールを破ったとみなされたのでしょう。しかし、βオスのロイがマウントしてもαオスのロボは無関心だったりするので、ロボとロイの関係などわからない点もあります。

 その後ネロは群れから離れて過ごしていましたが少しずつ群れの中へ入ってきているように見られます。さまざまな動きがありますが、群れとしての形は保っているようです。

 寒くなるとともにオオカミたちの動きが活発になり、日中の遠吠えの回数も増え、さまざまな狼模様をごらんいただけます。ぜひ、温かな格好でご来園ください。

写真上:αオスの「ロボ」
写真中:群れから離れて過ごす「ネロ」
写真下:オオカミたちの遠吠え

〔多摩動物公園南園飼育展示係 生駒正和〕

(2013年12月13日)



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