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チンパンジー、オス同士の熱き戦い
 └─2013/11/22

 11月も半ばが過ぎ、日中の冷え込みも厳しくなってきましたが、多摩動物公園チンパンジー舎では、この寒さを吹き飛ばすほどの熱い戦いが繰り広げられています。ふだんはお見せできないおとなのオス同士の関係について、お伝えします。

 当園では21頭のチンパンジーを飼育していますが、そのうちの3頭がおとなのオスで、現役リーダー(アルファオス)として群れをまとめる「ケンタ」(32歳)、かつてリーダーだったジョーの息子「ラッキー」(24歳)、おとなになってから来園した「デッキー」(推定35歳)です。

 チンパンジーのオスは、群れの中での順位がとても重要なので、互いの優劣をはっきりさせるためにしばしば闘争をおこないます。
 当園では、オス同士の闘争による深刻なケガを避けるため、3頭を三つの放飼場に分けて展示しています。一つはみなさんに公開している大きな放飼場で、あとの二つは動物舎の裏側にある非公開のものです。

 非公開の二つの放飼場は壁を挟んで隣接しています。壁には隙間もあり、オス同士が干渉し合う格好の場所になります。チンパンジーは直接攻撃するだけでなく、「ディスプレイ」という行動によって自分の力を誇示します。壁を叩いたり、丸太を転がしたり、ポリタンクを放り投げたりと、さまざまな方法で周りの個体に自分の強さをアピールします。

 ケンタとラッキーがこの隣接した放飼場に入ると、たいていラッキーが先にディスプレイを仕掛けます。毛を逆立てながら壁を素早くリズミカルに蹴り、大きな音を立てるのです。彼の派手なディスプレイの音は、チンパンジー舎の近くを通る来園者の耳にもしっかり届きます。
 しかし、「俺がナンバーワンだ!」といわんばかりのラッキーに、ケンタも黙ってはいません。味方になってくれるメスをそばに置き、壁の隙間からラッキーを見据え、渾身の力で壁を蹴ります。
 この日のディスプレイ合戦はいつもより長く激しいものでしたが、最終的にラッキーが泣きっ面のような表情を見せ、姉のナナに助けを求めたことで終息しました。

 しかし、非公開の放飼場にデッキーが入ると、状況はガラッと変わります。ラッキーもケンタもほとんど隣に干渉しなくなるのです。
 この3頭がお互いをどう見ているのか、とても気になります。

 当園にはご紹介した3頭のほかにも、次世代の若いオス「ボンボン」(8歳)、「マックス」(6歳)、「ジン」(5歳)がいます。彼らが立派なおとなのオスになるころ、多摩動物公園のチンパンジー勢力図は大きく動くでしょう。若いオスからの挑戦や世代交代が、いつ、どのように起こるのか……これからもオスたちの動向に目が離せません。

写真上:隣の放飼場をのぞく「ラッキー」
写真中:メスとともにラッキーの放飼場をのぞく「ケンタ」
写真下:壁を勢いよく蹴る「ラッキー」

〔多摩動物公園北園飼育展示係 中島麻衣〕

(2013年11月22日)



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