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トビズムカデの子育て
 └─2013/09/20

 多摩動物公園昆虫園本館2階では、トビズムカデを展示しています。今回は展示の裏側で見られたその子育てのようすをご紹介します。

 産卵したのは、2013年4月20日にチョウ班からゆずり受けた個体で、展示の控えとしてバックヤードで飼育していました。6月1日に初めての産卵を確認しましたが、1週間後には何もなくなっていました。

 およそ1か月後の7月6日に再び産卵し、今回も長い体をくるりと巻いてたくさんの脚で卵を抱いていました。卵は一粒の直径が2ミリほどの大きさで黄色みの強いイクラのようです。30粒以上はありそうです。

 通常、抱卵中のメスは餌を食べなくなり、ささいな音や振動が刺激となって卵を食べてしまうことも多いといわれます。しかしこのメスは、これまで食べることに貪欲だったので、すぐに食べられるよう死んだコオロギを顔のそばに置いてみたところ、しばらくすると抱卵したままコオロギを食べ始めました。

 こうして2〜3日ごとに1頭のペースでコオロギを食べ、りんごを時々かじりながら卵を抱き続けました。

 産卵から23日目の7月29日に孵化が見られました。親の姿勢はそのままで、だんご状にまとまった幼虫を大切そうに抱き続けています。幼虫たちの体は淡い黄色をしており、よく見るとわずかに脚が動いているのがわかります。

 このころの母親は、前脚か後ろ脚でりんごにしっかりとつかまっているところがよく見られました。卵のときとは異なり、もぞもぞうごめく幼虫たちを抱くには何かにしがみつく必要があったようです。

 8月13日には幼虫のものと思われる脱皮殻が落ちており、「幼虫だんご」がばらける日が近づいているように思われました。

 そして8月18日に「幼虫だんご」が解散していたので、母親を別のケースに分けることにしました。幼虫は全長2センチほどで、体色は薄い茶色になり、ある程度の数ごとにまとまり、物かげにかくれるようにして休んでいました。餌として孵化後間もないコオロギを生きたまま与えると、一斉に動き出し懸命にコオロギを追いかけて食べていました。

 一方の母親は育児疲れが出たようで、「一文字」にのびた状態でジッと動かないでいます。産卵からのひと月あまり、ずっと体を丸めた姿勢でいたのですから無理もありません。それでも小さめの生きたコオロギを与えると、気が向けば捕食しました。3日ほどで反応もよくなり、「つの字」の形で休むようになりました。

 8月30日に幼虫たちを大きめのケースに移しながら数えたところ、予想をはるかに上回る60頭が成育していました。

写真:トビズムカデの幼虫

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 中尾理幸〕

(2013年09月20日)



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