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カバタテハの卵どろぼうはだれ?
 └─2013/03/01

 多摩動物公園昆虫園の生態園で、とても不思議なことがありました。 夕方、びん挿しのヒマの葉にたくさん産みつけられていたカバタテハの卵が、翌朝ほとんどなくなっていたのです。たくさん育てようと思っていた矢先の出来事に大変ショックを受けました。

 野生ではチョウの卵はいろいろな天敵に狙われています。アリ、ゴキブリ、寄生蜂、カメムシ、テントウムシ、クサカゲロウの幼虫など挙げていくときりがありません。

 生態園でもいろいろな天敵が入ってきますが、どうやらアリが一番の天敵のようです。彼らは集団でやってきて、次々と卵をくわえて運び去ってしまいます。なんとかしてアリによる強奪を防がなければなりません。そこで、飼育担当者は採卵用の瓶挿しの下に水盆を敷き、水によってアリの侵入を防いでいます。

 にもかかわらずなくなっていた卵、一体だれの仕業なのでしょう? 

 よく観察してみると、犯人はやはりアリでした。その名もオオシワアリ。なんと彼らは水盆を泳いで渡り、カバタテハの卵を持ち去っていたのでした。水際で少しの間躊躇するようなそぶりを見せますが、やがて水の中に入っていきます。表面張力で水面に浮かんだアリは、6本の足を懸命に動かして少しずつ前へ進んでいきます。何匹ものアリが水面を往復して行きました。

 アリは道しるべフェロモンを使って餌のありかを仲間に伝えることが知られています。今回は水面に浮いている細かい塵や埃の上にフェロモンによる「餌場への道」が作られ、それをたどってアリたちが次々に水に飛び込んでいったのかも知れません。

 アリは地面を歩くものという先入観をもっていましたが、まさか泳いで渡るとは……。思いもよらないアリの行動に興味を引かれてしまいますが、卵をもって行くのはほどほどにしてほしいものです。

写真上:卵をくわえて泳ぐアリ
写真中上:卵を運び去ろうとするアリ
写真中下:ヒマのびん挿しと水盆
写真下:カバタテハ

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 草野啓一〕

(2013年03月01日)



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