多摩動物公園では、アジアゾウとアフリカゾウの健康管理のために、給餌方法などの工夫を進めています。その取り組みをご紹介しましょう。
◎アジアゾウ「アヌーラ」のストレッチ体操
アジアゾウのアヌーラは現在58歳、国内のオスでは最高齢です。野生のアジアゾウは森でくらし、葉や梢を主食とし、地表の草は副食程度にしか利用していないようです。しかし、約5歳のときに多摩動物公園に来たアヌーラは、床面の置かれた餌、あるいは飼育係の背丈ほどの高さに置かれた餌を食べてきました。つまり、鼻や頭を高く持ち上げて採食する機会がありませんでした。アヌーラは、そうした採餌行動を50年以上も続けてきたわけです。
近年、欧米の動物園や日本の一部の動物園で、ゾウのエンリッチメント(飼育環境の改善)を目的に、ロープで編んだ網に乾草などを入れて頭上高くに吊るし、高く上げた鼻で網目から草を取らせる給餌方法がおこなわれています。こうすることで、木の葉を食べる本来の習性に近づけるだけでなく、鼻の筋肉強化、頭の上げ下げによる首まわりや前足などの筋肉強化をうながし、健康維持もはかれます。
ゾウの飼育等に関するコンサルタントであるA.ルークロフト氏の助言も得て、飼育担当者が知恵をしぼった結果、午後の給餌(おやつ)の際、約5メートルの高さにある「見張り台」から餌を与えることにしました。
今までこの時間は、アヌーラは投げ入れられた餌を地面から拾って食べていましたが、今は頭を最大限に上げ、さらに鼻を伸ばさないと、大好きなパンやバナナにありつけません。
下を向いた生活から上を向いた生活に一変し、アヌーラも大変なようすです。鼻を高々と上げている時間は1分程度ですが、鼻を下ろしてから頬張った餌を咀嚼した後、再チャレンジ、休憩、再チャレンジを繰り返しています。このような10分足らずの首のストレッチ体操を日課として励んでいます。これで健康な体が維持できればまだまだ「アヌーラ」健在です!!
〔多摩動物公園南園飼育展示係 山川宏治〕
◎アフリカゾウのダイエット
多摩動物公園のアフリカゾウ「チーキ」と「アコ」は、現在ダイエットに取り組んでいます。肥満は心臓や足など体の各部に負担をかけ、病気の原因にもなります。とくにゾウなど大型の動物では、足の異常が命にもかかわります。そこで、3つの肥満対策にとりかかることにしました。
1つ目は給餌量の見直しです。今まで乾牧草や青草、木の枝、リンゴ、オレンジ、バナナなどの果物、ニンジン、サツマイモなどの野菜、ペレット(固形飼料)など約 100キログラムを与えていましたが、好物の果物は高カロリーなので少しずつ量を減らし、理想的な体格を目指しています。短期間では無理なので、ゾウの状態を観察しながらゆっくりと進めています。
2つ目は給餌方法の改善です。餌を高いところにもつけ、鼻を上げなければ取れないようにしました。この鼻をあげるという動作が減量に効果的だそうです。しかし、アフリカゾウの鼻はかなり高いところまで届くので、餌をつけるのは大変です。高いところへ登り、ワラの紐で束ねた青草を結びつけたりしています。また、餌の場所が高すぎるとあきらめてしまい、低いとダイエットにならず、高さの調節も簡単ではありません。最近はちょうどよい高さに吊るせるようになったので、2頭ともしっかり鼻を伸ばして餌を食べています。
3つ目は放飼場内に作った砂山での運動です。砂山は基本的に休園日に作ります。この山を歩いて越えさせ、運動量を少しでも増やすのがねらいです。うまくいくか心配でしたが、意外にあっさりと乗り越えました。しかし、同じ場所を繰り返し通るため、獣道(ゾウ道)ができてしまいます。そのため、飼育係も山を作るときは形や大きさを変えるよう工夫をしています。
まだ始めたばかりですが、体調に気を配りながら、効率よくダイエットを進めていきたいと思います。がんばるチーキとアコをぜひ見に来てください。
〔多摩動物公園北園飼育展示係 齋藤友樹〕
写真上:アジアゾウ「アヌーラ」
写真中:高い所の餌を取るアフリカゾウ「チーキ」
写真下:「チーキ」とダイエットマウンテン
(2012年02月17日)
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