2011年3月8日の朝、多摩動物公園のソデグロヅル舎に行くと、ペアケージで1羽飼いしているソデグロヅルの翼が血で汚れていました。翼をケガしたのかと思い、捕まえてみると翼にケガはなく、クチバシからの出血でした。どうやら、網越しにとなりのソデグロヅルと一戦交え、網にクチバシを突っ込み、下クチバシを折ってしまったようでした。
クチバシが折れたままでは、うまく餌を食べることができません。そこで、クチバシを成形することにしました。クチバシを成形するには、折れたクチバシにあわせて折れていない方を切りそろえるという方法があります。しかし、折れていない上クチバシを切ってしまうのは、なぜかもったいない気がしました。そこで、獣医と相談し、折れたクチバシにパテなどで作ったクチバシをつけ、長さをそろえるという方法をとることにしました。
もしかすると折れたクチバシがのびてくる可能性もあります。「クチバシがのびる」とは、ちょっと意外かもしれません。あらゆる場合にいえることではないのですが、とくにツルでは、折ってしまったクチバシがのびてきて、たびたび長さを切りそろえたりすることがあるのです。
治療後、数日たつと、器用にパンをつまんで食べるようすが見られ、しばらくするとミールワームをつまんで食べられるようになりました。
その後、つけたパテがずれてきたので交換したときに、わずかにクチバシがのびてきていることが確認できました。
さて、2か月ほどたった4月27日、下クチバシのパテをはずして上クチバシとあまり変わらないほどにのびていました。そこで、下クチバシの、のびた部分を成形しました。のびた下くちばしは、まだ少しやわらかい感じがしましたが、成形した後、好物のミールワームを与えると、すぐにつまんで食べることができました。
長いクチバシの鳥を飼っていると、どうしてもクチバシを折ってしまう事故がおきてしまいます。今回は、とてもうまくいきましたが、あのときなぜ、クチバシを揃えて切るのがもったいないと思ったのかは、自分でもいまだによくわかりません。今では、折ったとは思えないソデグロヅルのクチバシを見ると、切らなくて本当によかったと思っています。
写真上:治療前のクチバシ
写真中上:パテをつきやすくするため、クチバシに傷をつける
写真中下:パテがついた下クチバシ
写真下:約7か月後、どこが折れたかわからない(10月12日撮影)
〔多摩動物公園南園飼育展示係 土屋泉〕
(2011年10月21日)
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