ニュース
オランウータンと豆の木
 └─2011/07/15

 多摩動物公園では2011年4月にボルネオオランウータンの屋外運動場のやぐらを新しくしました。オランウータン舎ができて6年ですが、雨ざらしの屋外運動場は、木材の耐用年数に限界があります。すべて木製で造ったやぐらは腐食が目立つため、新しくしたやぐらは縦の柱を鉄製にし、横や斜めの棒、台座部分を木製で造りました。

 この小さめの運動場には、高さ3メートル直径30センチメートルの丸太を垂直に立て、この木を「豆の木」と名付けました。豆の木には直径3センチメートルの穴を多数あけ、その穴に飼育担当者がピーナッツを仕込みます。この仕組みはチンパンジーの運動場にある遊具「知恵の木」と同じです。チンパンジーは放飼場内の枝や指を使い、巧みに穴のピーナッツをとりだします。オランウータンの反応はどうでしょうか。

 使用初日は、「ジプシー」「ジュリー」「ユキ」「キキ」が運動場に出ました。すぐにピーナッツはとれないだろうという予想に反し、ユキは近くに置いておいた枝を手に取り、余計な枝を取り払って加工し、穴に入れたではありませんか。ピーナッツがあると分かり、なおかつ枝を使って取れることがわかったようです。運動場に以前からある「ハチの巣」と呼ばれる装置がヒントになったのかもしれません。ハチの巣を模した、この装置の中には、ジュースを入れた平皿が入っていて、穴から枝を差し込むとジュースが舐められるようになっています。

 しかし、枝を使用することはわかったものの、ピーナッツの取り方には苦戦していました。豆の木の穴は丸太を貫通していて、枝を入れすぎるとピーナッツが反対側へ落ちてしまいます。最初に枝を使ったユキは、ピーナッツを反対側へ押し出したために、すべてキキに食べられてしまいました。

 続いて挑戦したのはチャッピー、ポピー、ミンピーです。この3頭で真っ先に枝を差し込んだのは、一番年少である4歳のミンピーでしたが、結局ピーナッツを取り出すことができず、すぐに諦めてしまいました。 チャッピーは枝を持ってハチの巣へ行ってしまい、豆の木にはすぐに気付かなかったようです。

 この3頭で一番先にピーナッツを食べたのはポピーでした。枝を使用せず長い指でかき出したり、息を強く吹きかけてピーナッツを飛ばしたりする方法でした。その後、ミンピーもポピーをまねて、指でピーナッツをかき出していました。出遅れたチャッピーですが、後日枝を加工し、鮮やかな手つきで取りこぼさずに食べられるようになりました。高さ3メートルもある豆の木の自分の背より高い場所にあるピーナッツも食べることができます。

 ほぼ毎日放飼前にピーナッツを仕込むため、豆の木にとりくむオランウータンが見られるのは午前中が多いのですが、ピーナッツが残っていれば午後も見られます。道具を造り、道具を使って食べ物を得るオランウータンの賢さや、個体による取り方の違いなど、オランウータンの個性にも注目して見て下さい。

写真上:「豆の木」に挑戦中のチャッピーとポピー
写真下:放飼場、垂直の丸太が「豆の木」

〔多摩動物公園南園飼育展示係 徳田雪絵〕

(2011年07月15日)



ページトップへ