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インドサイのオス「ター」の夏
 └─2010/11/12

 2010年の夏はみなさんご存じの通り記録的な猛暑で、しかもその暑さが梅雨明けごろからこれでもか、とたたみかけるように続いた気がします。この異常気象に参ってしまったのは私たちヒトばかりではなく、高温多湿のインドやネパール原産で、比較的暑さに強いと思われているインドサイにとっても例外ではありませんでした。そんなひと夏を振り返ってみたいと思います。

 例年の夏は、興奮して走り回り体温が上昇してしまったときやよほど元気のないとき以外は冷房をかけません。それは、外気との差でかえって体調を崩すことを心配してなのですが、今年は2頭のオスに暑さの影響がみられたため、時間を限定して毎日のように冷房を使用しました。

 そんな中、多摩動物公園では「サマーナイト@Tama Zoo」として夜間開園がおこなわれ、これを利用して薄暮性(夕暮れに行動が活発になる)といわれるインドサイ本来の行動を引き出せるのではと考えました。雰囲気のよい夜間展示をおこなうとともに、サイにリラックスできる時間を与えるという、一挙両得をもくろんだのです。

 夜間におけるサイのリラックス度と比較するために、7月24、25日に、まずは暑い日中の行動パターンを調べました。観察個体は夜間展示で活躍してもらう予定の14歳のオス「ター」です。

 午前9時半に部屋から出ると、まずは30分ほど朝食の干し草と青草を食べます。その後は屋上からのシャワーを浴びて体を冷やす時間が長く、あっちこっち移動しながらその辺の雑草を食べたりして、12時ころ木陰で横になって休み始めます。午後1時前、全身が日向に出るのとほぼ同時に立ち上がってシャワーの場所へ向かいます。20分以上水浴びをしたり、部屋に入れてくれないかと扉の中をうかがったりした後、午後2時前には冷房のきいた部屋へ逃げ込んでお役御免となり、展示はメスの「ナラヤニ」と交代になります。

 8月1日のサマーナイト初日は、午後5時40分に部屋から出るとシャワーを1分程浴び、約10分採食しました。午後6時15分、新しくつくった、サイが伏せると半身が浸かる深さの水場で10分程横になりましたが、その後はシャワーと採食、部屋の中をうかがうことの繰り返し。再び午後7時頃に水場へ浸かってからは展示終了までの1時間ずっと水の中で気持ちよさそうに横になり、午後9時にようやく部屋へ入ってくれました。8月13日は、やや涼しい気候もあって気持ちよかったのか、3時間以上も続けて水に浸かっていました。

 部屋の工事でやむを得ずサイを外へ出したままにした夜は、水浴びをするサイの姿が月光に照らし出され、柔らかい水音がやけに大きく聞こえてきました。サマーナイト展示では、暗さと音の条件が刻々と変化します。その中で見る動物の姿はなかなか感動的でしたが、みなさんにうまく伝わったでしょうか。ただ、ターにリラックスした時間を与えられたことは、無駄ではなかったと思います。

写真上:日中、暑くて参ってます
写真下:薄暮のころ、水場で

〔多摩動物公園南園飼育展示係 由村泰雄〕

(2010年11月12日)



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