2009年6月17日、多摩動物公園でオーストラリアガマグチヨタカのひなが孵化しました。多摩での24年間にわたる飼育史で初めてのできごとです。昨年までは、産卵があっても、結局巣の外で壊れた卵(破卵)が見つかるだけで、孵化にはいたらなかったのです。
今シーズン最初の産卵は2009年4月22日に確認しましたが、結局、破卵となり、「今年もきびしいかなぁ」と思っていました。しかし、5月1日に産み出された卵は、数日間だけは親が抱いてくれたので、期待が高まっていました。
今回孵化したのは、5月18日に産み出された卵です。これを巣から取り出して孵卵器に入れたところ、無事に孵化したわけです。本物の卵を取り出したかわりに、巣には擬卵(ぎらん:本物に似せて作った樹脂製の人工卵)を入れておきました。孵卵器に入れたのが5月21日、孵化日が6月17日なので、27日後の孵化でした。
ひなは親に戻す予定でしたが、孵化が近づくと親鳥の抱卵行動が不安定になってきたため、今回は大事をとって、人間がひなを育てることにしました。なお、5月21日にも産卵があり、親鳥はそのまま抱いていましたが、この卵は無精卵でした。
孵化時のひなは体重21.5グラムしかなかったのですが、体のわりに口が大きく、体重の5%ほどもあるピンクマウスを丸呑みするほどでした。成長の過程で羽が反りかえりそうになるなど、多少の心配もありましたが、餌を調整したり、テープによる矯正を行なったりして、今は元気に育っています。8月5日現在の体重は 356グラム。親をそのまま小さくしたようなすがたになりました。1日にウズラのひなを10羽、計約80グラムを食べています。
今回うまく孵化した要因としては、「飼育エリアになるべく職員が立ち入らずにすむよう、作業手順を工夫した」「季節による採食量の変化に留意して対応した」「採食量がもっとも増える秋に手渡しで餌を与え、担当者への警戒心を減らし、また雌雄それぞれに対する餌内容も充分検討した」ことなどが挙げられるでしょう。また、育雛舎における担当職員の技術がなければ、育雛初期を乗り越えられなかったと思います。
現在、ひなはコアラ館の裏側にある、日光の差し込む通称「サンルーム」で飼育していますが、どのようなかたちでみなさんに見ていただくか、思案中です。飛んでいるすがたをお見せできないだろうか……などと夢見ています。
そうそう、性別を書いていませんでしたね。ひなはオス。名前は「ガマオ」です。命名者は、性別判定をした野生生物保全センターの職員です。
写真上:孵化日当日(2009年6月17日)のひな
写真下:49日令(2009年8月5日)
〔多摩動物公園南園飼育展示係 高橋孝太郎〕
(2009年08月07日)
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