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何を食べているの? 砂、砂、砂──12/5

 水族園でなんといっても人気があるのは、マグロの餌の時間です。水槽の上から飼育係が投げ入れるアジに突進するマグロたち。興奮して変化する体の色や、クルッと体を急回転させる行動、飲み込むように餌を食べるようすは、餌やりのときにしか観察できません。それだけではなく、「食べるさま」を見るということは、私たちにとって一種快感なのでしょうか、餌を食べるところを見たい!という方は多いようです。

 でも、餌の時間をのがしてしまったら……。今回はそんな方のために、一風変わった食事風景を紹介しましょう。しかも、“ほぼ”いつでも見ることができるのです。

 場所は「世界の海」コーナー、「グレートバリアリーフ」の水槽です。サンゴ礁にすむさまざまな生き物を展示しているこの水槽には、「サザナミハゼ」というハゼのなかまがいます。手前の砂地の上にいることが多いので、すぐ見つかるでしょう。

 さて、しばらく見ていると、おもしろい行動をしますよ。白い砂をパクッと食べ、口やエラをピクピクと小きざみにふるわせます。よく見るとエラのあいだからポロポロと砂が落ちて、その下に小さな砂の山ができます。そして少し泳いで、また砂をパクッ、ポロポロ。

 「これが食事風景なの?!」といわれそうですが、そうなんです。自然の海でもこの行動は頻繁に観察され、サザナミハゼのお腹からは、カイアシ類などの小さな生き物がでてくるそうです。砂の中の小さな生き物を砂といっしょに食べ、砂だけエラから出しているのです。しかし、どうやって生き物だけを器用に選りわけるのか、よくわかっていません。

 さて、グレートバリアリーフの水槽には、砂を食べている生き物がほかにもいます。ヒントは「砂のウンチ」です。白い砂の上に、ウインナソーセージのようにつながった砂の塊が落ちていませんか? これがウンチ。そして、その近くにゴロンところがっている生き物──そう、犯人は「クロナマコ」です。

 キュウリのようなかたちのナマコ。そのどちらか先っぽを見ると、フサのようなものが、外の砂をくっつけては体の中に運ぶようすが見られます。そして、もう一方の先っぽの穴からウンチを出すところを目撃できるかもしれません。じつはクロナマコは、砂を食べ、砂の中の有機物のカケラや、砂粒のまわりのバクテリアを栄養にしているのです。

 このように、サザナミハゼもクロナマコも砂を食べているのですが、あまり効率のよい食事のしかたではないようで、四六時中だらだらと食べています。そのおかげで、かなりの確率で食事風景を見ていただけるというわけです。

 でも考えてみれば、生き物がひしめきあってくらしているサンゴ礁で、無尽蔵にあり、しかも、あまり利用されていない砂に目をつけるなんて、なかなか賢いと思いませんか? 餌をめぐるきびしい競争をさけて、平和に(?)砂を食べている彼らがうらやましくもあります。

写真上:サザナミハゼ
写真下:クロナマコ

〔葛西臨海水族園調査係 天野未知〕



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