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スポッテッドラットフィッシュの幼魚を育てるくふう
 └─ 2024/07/12
 さまざまな深海生物に焦点をあて、期間限定でその魅力を伝えていく葛西臨海水族園の「深海の生物 トピック水槽」。2024年7月4日から、「深海の生物5」水槽で繁殖したスポッテッドラットフィッシュ(以下「ラットフィッシュ」)の幼魚の展示を始めました。今回は展示にたどり着くまでの、育成のくふうを紹介します。

 ラットフィッシュの生態や、興味深い繁殖行動については、こちらをご覧ください。

 展示している個体は、2024年1月21日に「深海の生物5」水槽で孵化し、水槽内で泳いでいたところを取り出して、バックヤードの水槽で育成をしました。

 ラットフィッシュの幼魚の育成で重要なのは、光環境と餌付け(飼育下でえさに慣らすこと)です。ラットフィッシュは暗い環境を好み、特に孵化直後は、明るい環境に置くと水槽内をくるくると回転する異常な行動を見せます。ここでくふうしたのは照明です。

 海では赤い光は水面付近で吸収され、深海には届かないため、多くの深海魚は赤い光を感じることができません。赤い光を使用することでラットフィッシュの幼魚は落ち着き、孵化直後も安定して飼育することができるようになりました。展示水槽では本来の体色や模様をお見せできるよう白い照明を照射しているため、次はこれに慣れさせていきます。最初は白い照明を弱く使用し、照度を測定しつつ、個体の反応を見ながら、徐々に展示水槽の照明を明るい白色に近づけていきました。


スポッテッドラットフィッシュの幼魚(赤いライトを使用しています)

 次の課題は餌付けです。水槽内を泳ぎ続けるラットフィッシュの幼魚は、水槽にそのままえさを撒いてもうまく食べられないため、棒の先に透明な釣り糸を付け、そこに1~2mmほどの大きさにちぎった甘エビやゴカイを固定し、直接口元にえさを与える方法が有効です。活発に泳ぐ幼魚に給餌をすることは難しいのですが、動きを先読みしつつ、鼻先にえさを近づけ匂いを嗅がせることでうまく与えられるようになり、その後は撒いたえさも食べるようになりました。


先端に釣り糸が付いた給餌棒の写真

 こうしたくふうをした甲斐があり、孵化時に全長約10cmだった幼魚は5か月で約20cmまで成長しました。日々成長していく小さなラットフィッシュを見られるのは、今だけです! ぜひ、ラットフィッシュの幼魚に会いに来てください。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 中村雪乃〕


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