葛西臨海水族園「渚の生物」水槽の潮だまり(タイドプール)には、砂浜を再現した島状の陸地があり、ツルナやハマヒルガオ、ハマゴウなどの海浜植物を展示しています。
観覧通路から見た陸地の風景
陸と海との境目である海岸は、自然環境によって、岩場や砂浜、干潟などに分けられます。海岸で見られる植物のうち、主に砂浜で生育する植物が海浜植物です。
はじめに、彼らがすむ砂浜がどのような環境か想像してみましょう。太陽の光をさえぎる高木がないため強い光が照りつけ、夏は高温になります。砂は雨水が浸透しやすく乾燥しがちです。葉や茎はつねに塩分を含んだ風にさらされており、強風や高潮などのときには直接海水がかかることもあるでしょう。植物にとっては過酷な環境といえます。そのような環境で繁栄してきた海浜植物には、どのような特徴があるでしょうか。展示のハマヒルガオとハマゴウを観察してみましょう。
ハマヒルガオは、日本全土に見られる代表的な砂浜海岸の植物です。茎は地中をはうように伸びて群生し、5~6月にアサガオのような桃色の花を咲かせます。葉は丸い形をしており、硬くつやがあります。このつやは表面のクチクラ層によるもので、強い光を反射する作用があります。厚みのある硬い葉は、塩分によるダメージを減らし、水分の蒸発を防ぎます。
砂浜には、ハマヒルガオのように、背が低く、根や茎が砂のなかをはうように伸びる植物が多く見られます。これは、強い潮風に飛ばされないためや、砂の中に浸透した水分をすばやく吸収するためなどの工夫と考えられています。地中に張りめぐらされた根や茎は、砂が流出するのを防ぐ働きもあるため、私たちにとっても役立っていますね。
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6月に花を咲かせた展示のハマヒルガオ。 花は1日でしぼんでしまう | ハマヒルガオの葉 |
島の後半に見える、枝が少し立ち上がっている植物はハマゴウです。北海道を除く海岸に生息しており、植物全体に芳香があります。
ハマゴウの葉を見ると、こちらも海浜植物らしい肉厚の葉をしています。葉の表面を覆う細かい毛は、乾燥や塩害から葉を守るとともに、余計な水分の蒸発を防いでいます。
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展示のハマゴウ | 細かい毛で覆われているハマゴウの葉 (左上は拡大した葉の表面) |
海浜植物は種子が海水に浮くものが多く、ハマゴウもそのひとつです。直径約5mmの丸い形をした種子は、皮がコルク質で2ヵ月以上も海水に浮き続けることが可能だそうです。種子のなかに海水が浸透するのを防ぎ、海流に乗って新しい地域へ分布を広げることができるでしょう。
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ハマゴウの種子 | ハマゴウの種子の断面 |
今回ご紹介した植物は、水族園周辺でも観察することができます。葛西海浜公園内の人工干潟「西なぎさ」では、水族園よりも一足早く、ハマゴウが紫色の花を咲かせています。ぜひ、お休みの日に西なぎさにも足を運んでみてください。
暑さにも負けず潮にも負けず、遠い海を旅して子孫を残してきた、海辺の植物に興味をもっていただけたら嬉しいです。
※「西なぎさ」の植物の開花情報などは、
葛西海浜公園にお問い合わせのうえお出かけください。
〔葛西臨海水族園教育普及係 高濱由美子〕
(2022年07月29日)