葛西臨海水族園と株式会社海遊館は2016年からミナミイワトビペンギンの人工授精に取り組み、本種では世界で初めて凍結した精子を用いた人工授精に成功しましたので、お知らせします。
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人工授精をするようす (撮影日:2022年3月28日) | ミナミイワトビペンギン |
背景
2011年から繁殖生態の解明と人工繁殖技術の確立をめざした研究を海遊館が始め、2016年に当園と連携し、同年世界で初めて液状保存の精子を用いた人工授精に成功しました。
2017年には取組みをさらに発展させるため、当園と海遊館は共同研究契約を締結し、精子の凍結保存への研究を本格的に開始しました。
状況
昨年度に海遊館で飼育しているミナミイワトビペンギンから精子を採取し、凍結保存の処理後に輸送した精子を用いて、当園のメス1羽に対して人工授精を実施しました。
人工授精を実施した1羽のメスは、2022年4月4日と4月8日にかけて計2つの卵を産み、5月8日に1羽のひなが誕生しました。血液を用いたDNA検査の結果、
凍結保存の精子を用いた人工授精によるひなであることが判明しました。なお、孵化したひなは、残念ながら5月10日に死亡しました。死因は
卵黄嚢吸収不全でした。
今回実施した人工授精と結果について
精子の処理 凍結保存
※世界初
人工授精の実施日 3月28、31日
産卵日 4月4日
孵化日 5月8日
DNA検査の結果(父個体) 人工授精(海遊館のオス)
精子の液状保存と凍結保存の違い
液状保存は、精子の劣化を最小限に抑えられますが、保存できる期間が短いことや人工授精と精子採取のタイミングが合わないと利用できないことが欠点です。2016年は約8時間保存した精子を用いて人工授精に成功しており、国内間の輸送など短時間の保存が可能であることを証明する結果でした。
一方、凍結保存は半永久的に精子(遺伝子)を保存でき、国内外を問わず輸送が可能です。人工授精に最適なタイミングで精子を解凍し利用できるため、より効率的な人工授精が可能になります。また凍結保存の技術が確立できれば、絶滅のおそれがある野生下のミナミイワトビペンギンの種の保存に貢献することもできます。
保存凍結の精子による人工授精が成功した要因
今回の成功要因は、以下の2点と考えています。
① 受精適期の推測に必要なデータが十分蓄積できており、最適なタイミングで人工授精を実施できたこと
② これまでの取組みの成果により得られた、精子を凍結するうえで受精を妨げない条件(希釈液の濃度、耐凍剤の濃度、凍結温度、凍結速度など)を満たすことができたこと
今後の取組み
当園と海遊館は、協力関係をより深め、本種における人工授精の技術を確立させます。また、この技術を国内外の水族館や動物園に普及させることで、繁殖を推進し、絶滅のおそれがある野生下のミナミイワトビペンギンの種の保存にも貢献したいと考えています。
日本国内の飼育状況(2021年12月31日現在)
11園館 118羽(オス67、メス46、不明5)
資料:2021年ミナミイワトビペンギン国内血統登録台帳【(公社)日本動物園水族館協会】
ミナミイワトビペンギンは日本国内11施設で合計118羽(2021年12月末時点)が飼育されていますが、個体群の高齢化が進んでいることなどから、個体数が減少しています。
当園は、日本国内においてもっとも多い41羽(オス24、メス15、不明2)を飼育し、繁殖に注力しています。海遊館では19羽(オス10、メス7、不明2)を飼育しており、この2施設が連携することで、日本国内における本種の健全な個体群の形成に向けた取組みを推進しています。
(2022年07月05日)