今回は、水族園の水槽をきれいに保つためのそうじ道具についてお話しします。
飼育担当者は通常、始業から水族園の開園時間までの1時間に、手分けしてすべての水槽をきれいにしなければなりません。手ぎわよく作業を進めることが求められますが、そうじをする箇所によって道具や使い方にも工夫があります。
まず、アクリルガラスは、ふつうのガラスとくらべて傷がつきやすいため、適切な素材選びが重要です。市販のスポンジは一見よさそうですが、表面の細かい穴に砂粒が入り込み、それらがアクリルガラスを傷つけてしまうため使いません。そこで使うのがダイビングの時に着るウエットスーツの生地です。やわらかく表面がすべすべしていて砂がつきにくいためです。
ウエットスーツ生地は表面がすべすべしていて砂がつきにくい
しかし、いくらやわらかい素材とはいえ、水槽の底の砂をまきあげて間に挟まってしまうと傷をつけてしまいます。このため、アクリルガラスのそうじは上から下に向かっての一方通行でおこないます。
たとえば、水深約2mの水槽で使用するそうじ道具は、底まで届くように2m以上ある長さの棒の先端にウエットスーツを切った生地をつけた道具を自分たちでつくります。
ウエットスーツ生地をとりつけた道具でアクリルガラスをそうじしているようす
次に、水槽壁面をそうじするときは、アクリルガラスよりも傷がつきにくいので市販のスポンジや、なんと歯ブラシも使います。これでせまいところや細かな汚れもうまくそうじができます。
水槽のかたちに合わせて使いやすいよう工夫してつくられたそうじ道具
左から順にメラミンスポンジ、アルミネットスポンジ、歯ブラシを棒の先端にとりつけてある
それでも頑固な汚れがとりにくい水槽に対しては奥の手を使います。水槽の壁ごと交換してしまうのです!
といっても、工事をするわけではありません。一部の水槽には「バックドロップ」(厚さ約1mmの高強度の特殊な樹脂製の板)を壁面に沿って設置しています。この「バックドロップ」は取り外しができるので、汚れがひどくなったら水槽から取り出し、ごしごしと洗ってきれいにすることができます。これらの作業は時間がかかるため休園日や閉園後におこないます。
「伊豆七島の海3」水槽の壁面に沿って設置された「バックドロップ」
きれいな水槽は、飼育担当者の日々のこうした努力によって保たれているのです。ちなみに、「大洋の航海者:マグロ」水槽のような特別大きい水槽は週に1回ダイバーが潜水してそうじをおこないます。このときに使う道具については、別の機会にあらためてご紹介します。
今回紹介したそうじ道具は「東京の海」エリア2階のキャットウォークから見ることができます。ご来園の際は生き物だけでなく、飼育係の使う特別な道具にも注目してみてください。
〔葛西臨海水族園教育普及係 服部詠一〕
(2022年04月08日)