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ヒメイカ──小さなイカの小さないのちの誕生
 └─ 2022/03/11
 ヒメイカは、成長しても2cmほどの大きさにしかならない世界最小のイカで、日本各地のアマモ場に生息しています。


ヒメイカ

 最新の研究で、ヒメイカのびっくりするような行動が明らかとなっています。

 イカのなかまは、オスがメスに精子が詰まったカプセルを渡し、メスはそれを体内にある精子嚢という袋に蓄えます。そして、卵を産みつけるときにこの袋から精子を絞り出し、卵にかけて受精させますが、なんとヒメイカのメスでは、一度受け取った精子を捨てたり、かける精子の数を調節したりすることがわかっています。これは、メスが卵の父親となるオスを選んでいる可能性を示しています。

 そんな興味深い繁殖生態をもつヒメイカの産卵や孵化を、「東京の海」エリアの2階「アマモ場の小さな生き物」水槽で、2021年12月から2022年2月にかけて複数回、確認しました。アマモの葉に産みつけられた卵をほかの生き物に食べられないようにプラケースに移したところ、約20日後に小さなヒメイカの姿を発見しました。これまでに国内でヒメイカの稚仔の育成がうまくいった例はほとんど確認されていません。

 現在、水族園では手探りですが、水槽の形状や水流の強さなどの飼育環境を変えたり、イサザアミの稚アミやブラインシュリンプの幼生を与えたりしながら、育成に取り組んでいます。

アマモの葉に産みつけられたヒメイカの卵
水槽内でのヒメイカの稚仔

 小さなヒメイカの姿を顕微鏡で観察すると、大きさは2.5mmほどでまだ長い腕はありませんが、イカやタコにある色素胞という体の色を変えるときに役立つ細胞を確認することができました。


顕微鏡で観察したヒメイカの稚仔

 ヒメイカがくらすアマモ場は、東京湾の生き物を支える重要な役割を果たしています。ヒメイカのほかにも、アオリイカやコウイカが産卵場所として利用し、クロダイやシロメバル、ボラなど、さまざまな魚が幼魚の時期をすごす場となっています。生い茂ったアマモは、隠れ家となるだけでなく、葉の上にはヨコエビのなかまやワレカラのなかま、巻貝のなかまなど、えさとなる生き物が豊富にくらしていて、アマモそのものもえさとして食べられます。

 アマモ場はかつて東京湾の浅い砂地に広範囲に拡がっていましたが、埋め立て工事や水質悪化などの影響でほとんど見られなくなってしまいました。現在、東京湾の各地で、水質改善やアマモ場再生などの活動もおこなわれています。葛西臨海水族園で、ヒメイカをはじめとしたアマモ水槽の生き物をご覧いただきながら、たくさんの種類の生き物がくらせるアマモ場の豊かさを感じていただけたらうれしいです。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 森田夕貴〕

(2022年03月11日)



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