葛西臨海水族園では、展示生物を入手するために、スキューバ潜水や釣りなど、スタッフが自らフィールドにおもむき、さまざまな採集をおこなっています。ときには漁師さんの船に乗せてもらい、漁で獲れる魚をいただくこともあります。今回は定置網漁による採集についてご紹介します。
定置網漁とは、海中に張った大きな固定式の網「定置網」に魚を誘い込み、網に入った魚を獲る漁のことです。特定の魚種を狙う漁ではないため、網の中にはさまざまな種類の生き物が入ります。漁船が港から出船する時間は夜明け前のまだ日の出ていない時間です。水族園スタッフは、漁港から30分ほど船を走らせた場所にしかけてある定置網へ漁師さんとともに向かいます。
船が定置網に着くといよいよ漁が始まります。漁師さんたちは機械を使って大きな網をゆっくりと絞っていきます。このときがスタッフの採集チャンスです。どんどん狭くなる網の中から目当ての魚を見つけ、長い柄の付いた網を使ってすくい上げていきます。
魚は船上に置かせてもらったクーラーボックスで生かして収容する
絞られた定置網の中は魚でいっぱいになっていきます。もたもたしていると、せっかく目当ての魚がいても、他の魚とぶつかって傷ついてしまうので、すくい上げるためにはタイミングと素早い動きが求められます。
スタッフはふだんから漁師さんとコミュニケーションをとり、「最近は~が入っているよ」といった情報を得たうえで乗船日を決めますが、上記のように何が入るか分からないのが定置網漁の面白さです。狙った生き物が入っていれば嬉しいのですが、毎回狙い通りにうまくいくとはかぎりません。しかし、ときには思ってもいなかった生き物が入るときもあり、スタッフを驚かせてくれます。定置網を絞るときは、毎回期待と不安が入り混じる緊張の瞬間です。
絞られる網と目当ての魚を探すスタッフ(オレンジ色のカッパ)
このように定置網採集は労力を要する採集なのですが、何が採れるかわからない期待と、珍しい生き物が見られたときの興奮を思うと、また行きたいと思ってしまいます。こうやって採集ができるのは協力していただいている漁師さんの理解があってこそ。感謝の気持ちしかありません。
定置網で採集された魚はバックヤードでしばらく落ち着かせたあと、展示されます。日本の食卓を支える漁師さんは水族園の展示も支えているのです。
〔葛西臨海水族園調査係 小川悠介〕
(2020年09月11日)