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「キャットウォーク」から見えるもの──えさの与えかた編
 └─2018/12/14

 葛西臨海水族園「東京の海」エリアの作業スペースにいると、キャットウォークの来園者の方からよく声をかけていただきます。給餌のときは「何をあげてるの?」とよく聞かれます。

 水族園では約30種類ものえさを利用していますが、おもなえさを前回の「『キャットウォーク』から見えるもの──バケツの中身編」でご紹介しました。

 次に多い質問は「えさは1日に何回?」です。キャットウォークから見た飼育係はさっき給餌した水槽にまたえさを与えているかと思えば、えさを与えず通り過ぎてしまう水槽もあります。忘れてしまったのかな、と心配になる方もいるかもしれません。ご安心ください。忘れたわけではなく、生き物によって給餌回数が違うのです。

 たとえば「小笠原の海 1」水槽。ベニオチョウチョウウオなどのチョウチョウウオのなかまは、海では小さな生き物を一日中ついばむように食べています。そのような魚がいる水槽には細かいえさを1日に何度か与えます。水槽によっては前を通るたびに給餌する水槽もあります。

 同じ水槽の魚でも違いがあります。「東京湾の漁業」水槽では、自然の海で小さなプランクトンをいつも食べているマイワシやコノシロなどには1日に数回えさを与えますが、ふだん海の底でじっと動かず、獲物を待ち伏せしているようなマコガレイなどには、大き目のえさを2日に1回ほどしかやりません。このように、その魚のくらしに合わせてえさの種類だけでなく、量や回数も変わるのです。


 では、飼育係がえさを与えるようすを観察してみましょう。飼育係が水槽近くに立つと、待っていましたとばかりに魚がいっせいに集まってきます。えさのやり方にご注目ください。集まってきた魚の近くにまとめて与えることはしません。取り合いになってお互いがぶつかり合ったり、泳ぎの速い魚や力の強い魚ばかりが食べてしまったりすることになるからです。そのため、広く水槽全体にまくようにして、安全にすべての魚にえさが行き渡るよう工夫しているのです。

 すべての魚がちゃんと食べているか、飼育係はしっかりと観察しています。とはいえ、私のような新人にはこれがなかなか簡単ではありません。獲物を捕らえる魚の動きは素早く、えさは一瞬でなくなってしまいます。さらに魚が動き回り、水面が波立つと水の中の魚はとても見えにくくなってしまいます。それでも、魚の動きがいつもと違わないか、見落とすことはできません。魚が体調を悪くすると、動きや食欲に変化が現れるからです。

 何気なく、楽しそうにえさをやっているように見えるかもしれません。でも、えさを追いかける魚も必死ですが、えさを与えながら観察する飼育係も必死なのです。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 鈴木佐知子〕

(2018年12月14日)



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