葛西臨海水族園の「世界の海」エリアに「極地」の水槽があります。その一つ「北極1」の水槽を覗くと目に入る全身真っ赤な生き物。これは「スカーレットプソルス」と呼ばれる生き物です。なんとなく花を咲かせているように見えますが、イソギンチャクのなかまでしょうか?
スカーレットプソルス
いえいえ、この生き物はナマコのなかまです。ナマコにはこんなイソギンチャクみたいな触手はないって? では他のナマコをよく観察してみましょう。たとえば、「東京の海」エリアの「アマモ場の生物」水槽にいるマナマコのように海底を這い回るナマコを観察していると、口から何やら出し入れしていることがあります。
ナマコのなかまは口のまわりにある「口縁触手」と呼ばれる器官を使ってえさを食べます。マナマコなど海底を這い回るタイプは、触手に砂や泥をくっつけて口へと運び、砂の中の有機物だけを栄養として吸収しています。出てくる糞はきれいな砂なので、ナマコたちは海の掃除屋ともいえます。
【動画】触手を出して摂餌中のマナマコ
一方で、スカーレットプソルスなどはその場でじっとしたまま、「樹手」と呼ばれる触手をイソギンチャクのように水中にめいっぱい広げるタイプです。海中を漂うプランクトンや有機物を樹手でとらえ、真ん中の口に運んで食べます。
【動画】触手を動かしてえさを摂るスカーレットプソルス
ただ、樹手は出しっぱなしではなく引っ込めていることもあります。展示水槽では触手を広げた姿が見ていただけるよう、スープ状にしたえさやブラインシュリンプと呼ばれるプランクトンを1日2~3回与えています。
しかし、思い通りにいかないのが生き物です。それまで順調に触手を広げていたのに、次の日から縮こまることもあります。そんなときは、水の流れる向きや強さを変えながら、えさも入れて観察を続けます。こちらが辛抱強く待ち続けていると、スカーレットプソルスも徐々に花を咲かせるように、ふたたび触手を広げるのです。
夏休みの頃からしばらく触手を広げない時期がありましたが、またよく広げてくれるようになりました。じっとしていて動きが殆ど見えない生き物ですが、じっくりと腰をすえた観察をおすすめします。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 幅祥太〕
(2018年10月12日)