葛西臨海水族園の園内でときどき、「ペンギンのオスとメスは見分けられますか?」と聞かれることがあります。オスがメスより少し大きいくらいで、それ以外に外見上の違いはなく、一目で雌雄を見分けるのは困難です。
ではペンギンどうしは見分けているのでしょうか。鳥は色覚能力が高いので、人間とは異なって見える世界の中で視覚をヒントに見分けているのかもしれません。しかし、実態はよく分かっていません。ところが先日、ミナミイワトビペンギンの繁殖期に興味深い行動が見られました。
左:オス 右:メス
葛西臨海水族園では、なるべく野生の行動をとらせるために、繁殖期に一度オスとメスを別居させた後に別居させ、頃合を見はからって、ふたたび同居させています。別居期間中、オスはメスを迎え入れるためになるべくよい場所を確保し、石やワラなどの巣材をせっせと集めて巣を作ります。よい場所でしっかりとした巣を作らないとメスとペアになれないので、この時期のオスは自分の巣を他のオスから守るために攻撃的になります
ところがメスとふたたび同居したときは行動が一変します。これまで、他のオスを追い払っていた個体が、メスが来ると熱心に求愛行動をおこない、一切攻撃する素振りを見せません。しかも、複数のメスを受け入れることもあります。やはりペンギンどうしは雌雄の見分けがついているとわかる行動です。
中には自分で巣を作れないオスも現れます。そうしたオスが巣を奪いに来ると、巣の主であるオスは攻撃を始め、追い払ってしまいます。また、一つの巣に複数のメスが集中した場合、自分以外のメスを追い出そうと争いが始まります。争いは、オスどうし、メスどうしでのみ発生するのです。
こうした行動を見ると、「やっぱりペンギンどうしは一目でオスとメスを見分けられている」と実感します。
本に書かれていないことを発見できるのは、生き物を飼育する水族園ならではのメリットです。残念ながら現在、ミナミイワトビペンギンは繁殖と避暑のため、非公開エリアにいるのでご覧になれません。しかし水族園には他にも魅力ある生き物をたくさんいます。ぜひじっくり観察してみてください。きっと新しい発見があるはずです。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 野島大貴〕
(2018年06月01日)