葛西臨海水族園「世界の海」エリアの「オーストラリア南部」水槽ではこれまで、ナーサリーフィッシュという汽水にすむ魚をおもに展示してきました。ナーサリーフィッシュは非常に“デリケート”で取り扱いにも注意が必要です。そこで水族園の職員が現地におもむき、採集や現地での一時的な保管飼育、輸送のためのパッキングなど、すべてを自分たちで作業をおこなっています。
数年前の採集で現地を訪れたときのこと、地元の人が罠でエビを採っているところに出くわしました。その罠の中を見て驚きました。衝撃的な大きさのテナガエビが目に飛び込んできたのです。
調べるとオニテナガエビというエビであることがすぐにわかり、以来「このエビを展示したいなー」という思いが募っていったのでした。
オニテナガエビは東南アジアやオーストラリア北部、パプアニューギニアなどに生息する体長30センチほどにもなる大型のテナガエビのなかまです。テナガエビは一般的にて魚をえさとする傾向が強い生物です。水槽で魚といっしょにするために私たちは展示の際のさまざまな影響を検討したうえで、今年(2017年)の8月、やっと現地から連れ帰ることができたのです。
バックヤードの水槽での生活がスタートしたオニテナガエビ。まず、食べる量を調べるために、えさの量を調整してみました。同居する魚はデリケートなナーサリーフィッシュです。オニテナガエビも、えさが足りなければ泳いでいる魚を襲わないともかぎりません。
そこでエビたちには好きなだけ食べさせて、残ったら回収するという方法を調整しながら繰り返し、他の生物を襲わない程度の満腹感を維持できるえさの量を見きわめました。そして1か月後、オス1尾、メス2尾、合計3尾のオニテナガエビたちが、晴れて展示水槽へデビューを果たしたのです。
ナーサリーフィッシュと同居したオニテナガエビ
引越し直後のエビたちは水槽内に設置してある木の裏や水槽の端の見えない部分に入り込み、来園者の方から見えないこともありました。しかし引越しからおよそ3か月たった今では、水槽の真ん中を堂々と歩きまわったり、底砂を掘って居場所をつくったり、ストレスなく生活しているようすを見せるようになりました。
心配されたナーサリーフィッシュとの同居も、えさの量が十分ならお互いあまり干渉はしないようで、給餌作業のときは、つぎつぎにえさを取りに来るオニテナガエビやナーサリーフィッシュを見ながら「よしよし。今日もみんな元気だな!」とニヤニヤしてしまう僕なのでした。
展示水槽にもなれてきた葛西臨海水族園初展示の巨大エビ、オニテナガエビ。その大きさを是非体感しにご来園ください。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 増渕和彦〕
(2017年12月01日)