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主役級脇役?グースネックバーナクル!
 └─2017/08/04

 葛西臨海水族園ではたくさんの生物を飼育しています。その数なんと、900種類以上! そんな大量の生物たちの中から選抜された精鋭たちで展示水槽は成り立っているのです。

 展示の多くは魚類を中心に構成されていますが、海の中ではさまざまな生物が同じ場所で生活しています。つまりそれを水槽で再現する場合、魚類以外の生物、無脊椎動物もなくてはならない存在なのです。今回はそんな水槽内の名バイプレイヤーをご紹介しましょう。

 世界の海エリアの「カナダ西岸」水槽のグースネックバーナクルが今回の主役です。体は伸び縮みする柄のような部分と、その柄の先に殻に覆われた頭のような部分があり、フォルムはキノコのようです。その姿から、「グースネック(ガチョウやガンの首のような)バーナクル(フジツボのなかま)」という名前がついたのでしょう(追記:なおそれに加えて、かつて西洋ではフジツボからガンが生まれる伝承や、海の浮木から生まれるが夏の間はフジツボの形に変わるという伝承があり、それ由来なのでしょうか、このフジツボも英語で「グースバーナクル」と呼ばれることがあるようです)。


 主役を食ってしまうくらいインパクトのあるこの生物、その形からはイメージできませんが、じつはカニやエビなどと同じ甲殻類です。頭のような部分の殻の中には「蔓脚」(まんきゃく)と呼ばれる脚があり、それを殻から出して「熊手」のように広げ、引っかかったえさを食べて生活しています。

 見た目も生活のしかたもとてもユニークな生物ですが、いざ水槽内に展示しようとすると意外に手間のかかる生物でもあります。魚と違って自分で移動できませんから、水槽内のどこに置いてやればいいか、飼育職員が考えなければなりません。これがなかなか難しいところ。

 流れてくるものを捕まえる生活なら、水槽内の流れのある場所に置いてやればよい──かというとそう簡単ではありません。このタイプの生物はその種ごとに蔓脚の大きさや形がさまざまで、自分にあった強さの流れがある場所に住み着きます。ですから水槽内にグースネックバーナクルを置いたあと、その「熊手」の広げ具合を毎日観察し、ここでもない、あそこでもない、と頻繁に引越しをさせることもしばしばなのです。

 いま展示している個体群はひとまず現在の場所が定位置となりましたが、「熊手」しだいではまた引越しとなるかもしれません。「手がかかる子ほどかわいい」とはよく言ったもので、あまり動きのないこの生物も手をかけていけばいくほど愛着がわいてきます。

 状態の変化がわかりづらい無脊椎動物ではありますが、これからも水槽内に「心地よい場所」を再現し、さまざまな生物を元気に飼育できるよう、精進していきたいと思います。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 増渕和彦〕

(2017年08月04日)
(2020年04月19日:グースバーナクルの呼称について追記)


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