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深海生物のなぞを解明する[2]メンダコが卵を産みました
 └─葛西  2016/08/12

 葛西臨海水族園では長年、不思議な深海生物「メンダコ」を展示すべく、長期飼育に取り組んできました。昨年(2015年)の取り組みについても以下に記事を書きました。

・「深海生物のなぞを解明する──メンダコ飼育展示へのチャレンジ

 今年もメンダコの飼育条件について解明しようと、裏側にある施設で飼育していました。2016年5月20日、メンダコの飼育日数が30日目を迎えた日、それは見つかりました。

産卵したメンダコ
石に接着したメンダコの卵

 これまでなかった白い棒状のものが、メンダコの飼育水槽で発見されたのです。メンダコの糞に似ていたため、最初は立派な糞をしたなぁと呑気に構えていました。しかし、いざ掃除しようとしたときに、ふだん使うサイフォンではまったく吸い取ることができず、産みつけられた卵のうであることに気づきました。産卵は前日の5月19日の夕方から20日の朝に発見するまでの間におこなわれたと考えられます。

昨年飼育していたメンダコも産卵はしましたが、単に砂の上に産み落とされただけでした。メンダコのなかま(別種)が水槽の岩に卵を産みつけたという事例があったので、正常な産卵とは考えられません。しかし、今回の卵は水槽の床にしっかりと産みつけられていたのです。

メンダコ類は複数の種が知られており、飼育下で産卵した事例は海外でありますが、和名でメンダコと呼ばれる本種(Opisthoteuthis depressa)の産卵事例はこれまで報告がありません。世界初の貴重な記録です。

 2~3日経つと卵を包む白い鞘のようなもの(卵のう)は茶色く硬く変化していきました。長さは約2.5センチです。十分硬くなったことを確認したうえで水槽の底から慎重に剥がしてみると、ラグビーボールのような形の長さ約7ミリの白い卵が2個連なっていて、卵のうは卵の一方の端を上に向かせるようなかたちで一部だけが水槽の底に接着されていました。

 産卵したメンダコは2016年4月20日、静岡県沼津市戸田港沖の水深約150メートルで深海底曳き網料によって採集された個体です。その後、葛西臨海水族園の非公開施設の繁殖センター内の水槽で飼育を開始し、その6日後にはサクラエビのミンチを食べるようになり、飼育経過は順調でした。

 しかし残念ながら産卵後、飼育日数44日目にあたる2016年6月3日に死んでしまいましたが、この産卵は学術的にも非常に貴重な事例であることから、今後、東京海洋大学の土屋光太郎先生のアドバイスをいただきながら研究を進める予定です。現在、産みつけられた水槽から取り出し、同じ施設の別の水槽に移して経過観察中です。昨年の事例から予測すると、およそ半年後に孵化すると思われます。うまくいけばメンダコの赤ちゃんを見られるかもしれません。

 なぞの多い深海生物「メンダコ」。これからもひとつひとつ、なぞを解き明かしながら展示への道を探っていきたいと思います。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 小味亮介〕

(2016年08月12日)(2016年08月14日更新)


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