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小笠原らしい海を目指して──スジクロハギの展示
 └─2015/06/12

 2015年5月、葛西臨海水族園の「東京の海」エリア「小笠原の海4」水槽にスジクロハギを10尾追加展示しました。スジクロハギは、大きくなると全長25センチほどになるニザダイ科の魚です。日本では、おもに和歌山県以南の岩礁域やサンゴ礁域に生息しています。


 小笠原ではよく見られる種で、数百尾もの群れをつくることもあり、迫力ある姿を見せてくれます。小笠原を代表する魚のひとつともいえ、以前から群れで展示したいと思っていました。今回、幸運なことに、私は採集と飼育の両方に関わることができました。

 展示した個体は、今年2月に小笠原で採集してきたものです。小笠原の海では、潜れば必ずといっていいほど見かけるスジクロハギですが、捕まえるのにはとても苦労しました。採集の手順ですが、あらかじめ追い込む場所を決め、そこへフェンスネットを仕掛けます(東京都から特別採捕許可を受けています)。数人で群れを追い込み、行き場を失ったところを手網で捕まえます。しかし、こちらの動きをよく見ているのか、数多くいたはずのスジクロハギはいつの間にかいなくなり、手網の中には別の魚が入っていたことも。何度も仕切り直し、目標の数が集まったときには、大きな達成感がありました。

 水族園に戻ってからも、餌に対して反応のない日がしばらく続き、餌に慣れて食べるようになるまでの期間は根気との勝負でした。水槽に光や人影が入らないよう暗幕を張り、慎重に給餌しました。ゴカイや活アサリ等、さまざまな餌を根気よく与え続けた結果、今では積極的に食べるようになり、展示することができました。

 今回追加した個体は20センチほどの大きなものです。数百尾の群れとはいきませんが、水槽内を泳ぐ姿を見ていると、小笠原の海に一歩近づいたような気持ちになってきます。

 同じ水槽には、ウメイロモドキやナンヨウブダイなど、華やかな色合いの魚が多くいます。対して、スジクロハギの体色は灰色で、目の後ろに白と黒の帯模様が入り、やや控えめな印象を受けるかもしれませんが、ぜひご注目ください。これからも小笠原らしい海を目指した展示を手がけていきたいと思います。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 戸村奈実子〕

(2015年06月12日)


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