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苦戦した小笠原での調査・採集
 └─2014/10/24

 2014年10月上中旬、生物調査・採集のために東京都小笠原村父島に出張しました。出張の目的は小笠原を代表するチョウチョウウオ、ユウゼン(写真上)の調査と、水族園で展示する水生生物の採集です。

 雲ひとつない青い空、「ボニンブルー」と呼ばれる小笠原特有の濃紺の海、さわやかな風に吹かれながら、調査は順調……とはいきませんでした。台風18号、19号の影響は小笠原にもおよび、海況が悪く、海が穏やかな時間、場所をなんとか選んで調査・採集をおこないました。

 さて、生物の採集は、対象となる生物の生態や現場の条件に合わせて、釣りや磯採集、潜水採集など、さまざまな方法でおこないます。今回はスクーバダイビングによる潜水採集についてご紹介しましょう。

 潜水採集の際は、必要な許可を得て、通常のダイビング機材のほかに、手網や採集容器などを持って潜ります(写真中)。また、フェンスネットと呼ばれる大型の網も使います。フェンスネットは下側におもりが、上側には浮きがついていて、水中で広げるとフェンス状に立ち上がります(写真下)。ここに目的の魚を追い込んで、採集します。

 採集相手は海の中を自由に泳ぎまわる魚です。こちらの思惑通りに簡単に追い込めるわけではありません。フェンスネットをしかける場所や追い込み方が重要で、さらにダイバーどうしのチームワークも必要不可欠です。両手に手網を持ち、適度な距離を保ちながら、周囲を取り囲むようにしてじわじわと追い込んでいきます。ちょっとでも無理に追い回すと、警戒してあっという間に逃げられてしまいますし、近くのサンゴや岩場に、すっと隠れてしまうこともあります。

 今回の採集でも逃げられてしまうことがあり、悔しい思いをしました。しかし、ネットの張り方や追い込み方を工夫するなど、みんなで作戦を立て直し、挑戦を繰り返しました。そしてついに目的の魚をネットまで追い込むと胸が高まります。しかし、手網で魚を捕まえ、採集容器に入れるまでは絶対に気が抜けません。少しでも隙を見せると、すぐに逃げられてしまうからです。

 今回、2度の台風により天候に恵まれなかった小笠原出張でしたが、なんとか予定していた生物を採集することができました。葛西臨海水族園ではこのようにして、さまざまな方法で展示生物を集めています。水槽の中の生物を見て、自分だったらどうやって集めるか、考えてみるとおもしろいかもしれません。

写真上:ユウゼン
写真中:潜水採集のための装備。ダイビング機材に加え、手網や採集容器を持つ
写真下:「フェンスネット」と呼ばれる大型の網に魚を追い込んで採集する

〔葛西臨海水族園調査係 中沢純一〕




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