葛西臨海水族園「深海の生物5」水槽では、スポッテッドラットフィッシュ(以下ラットフィッシュ)を展示しています。ラットフィッシュは、アラスカやカリフォルニア半島沿岸などに生息するギンザメのなかまで、全長約90センチになります。
ラットフィッシュの交尾の仕方については、以前のニュースでご紹介しましたが、今回はその卵の話をします。
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「特別なフックでメスと交尾」(2005年10月14日)
ラットフィッシュの卵は、長さ約13センチの細長い殻に包まれています。殻の色は黄褐色で、一見植物の枯れ葉のようにも見えます。メスは通常1度に2個の卵を産み出し、しばらくお腹からぶら下げて泳いだ後、砂の中に卵を埋め込みます。驚くことに、卵は何か月もかけて発生が進み、孵化した子どもは砂の中から出てきます。この水槽でも何度かラットフィッシュの子どもが突如現あれ、職員を仰天させたことがあります。
水槽では現在4尾のラットフィッシュを展示しており、このうち2尾はメスです。どちらも水槽内でときどき産卵しており、卵をつけて泳いでいる姿も見ることができます。
その後メスは卵を砂に埋め込みますが、ひとつ困ったことがあります。後日、卵の一部が掘り起こされてしまうのです。その時はすでに殻の中身はありません。同居しているヒトデのなかまバットスターが殻の上に乗っているのをよく見かけますが、卵を掘り起こして中身を食べてしまうのは、いったい誰なのでしょうか?
じつは犯人はラットフィッシュです。ギンザメのなかまは、頭部に餌や周囲の物を察知するための感覚器官が発達しています。ラットフィッシュは、この器官などを使って砂の中の卵を探し出しているようです。バットスターは、殻についた中身の残骸などを食べていたのだと思われます。
観察している限りでは、ラットフィッシュは卵をすべて掘り起こしているわけではないようで、現在、砂の中から回収した卵を予備水槽で飼育中です。今後もラットフィッシュの産卵を観察しながら、卵の育成にも取り組んでいきます。
写真上:お腹から卵をぶら下げているラットフィッシュ
写真下:ラットフィッシュの卵殻(らんかく)
〔葛西臨海水族園飼育展示係 高濱由美子〕
(2014年03月07日)