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ミツクリザメの飛び出すあご
 └─2011/09/02

 葛西臨海水族園で開催されている企画展「東京湾にも深海ギョ!?」は2011年9月19日で、残りわずかとなります。(追記:終了しました)

 この企画展では水族園の目の前から続く東京湾の「深海」にスポットをあて、どのような生物が生息しているのかを紹介しています。実際の深海生物の標本や、東京湾の海底にある谷「東京海底谷」の深海映像、水深 100メートル相当の圧力をかけて飼育できる加圧水槽の展示など見所いっぱいですが、天井につるされた全長3メートルのミツクリザメの模型にもご注目ください。この模型の口はミツクリザメの特徴である「飛び出すあご」を表現していますが、自分はこのあごで失敗をしてしまったことがあります。

 下記記事でもご紹介したとおり、水族園では東京湾の深海で採集されるミツクリザメの飼育展示にチャレンジしています。

「ミツクリザメの展示に再挑戦!」(2011/02/03)
「高感度カメラでミツクリザメを撮影」(2010/04/09)

 2011年2月2日に採集された全長1メートルほどのミツクリザメは、水槽での状態がよさそうだったので餌を与えてみることにしました。深海の小さなエビのなかまであるサクラエビを鼻先に落としてみましたが、ミツクリザメは吻(ふん:眼より前につきだした部分)が長いのでうまく口元に餌が届きません。そこで、落としたサクラエビが口元まで流れるように、手で水流を起こしてみました。2回おこなっても反応がなかったので、3回目は少し近くで手を動かしました。うまく口元にサクラエビが届いたなと思った次の瞬間、指に鋭い痛みが走りました。「噛まれた!」と思うと同時に「口からはかなり離れていたはずなのになぜ?」という考えが頭に浮かびましたが、ミツクリザメの飛び出すあごを思い出して、妙に納得してしまいました。噛む力はそれほど強くなく、幸いすぐに放してくれましたが、細く鋭い歯が刺さった指からはタラタラと血が流れ出しました。

 飼育係が飼育動物にケガをさせられることは恥ずかしいことですが、ミツクリザメの飛び出すあごを紹介する意味と、おそらくほかに経験した人間がいないだろうと思いこの文を書きました。ケガをした指は止血と消毒をしただけで、1か月ほどできれいに治ったのですが、その後、一部分だけおできのように腫れてきました。噛まれたことが原因とは思っていなかったのですが、3か月ほどたったある日、その部分から小さなミツクリザメの歯のかけらが出てきて驚きました。

写真上:ミツクリザメの模型(あごを出した状態)
写真中:ミツクリザメに噛まれた傷
写真下:指から出てきたサメの歯先(白線は1ミリメートル)

〔葛西臨海水族園飼育展示係 三森亮介〕

(2011年09月02日)



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