葛西臨海水族園では、毎年ウミガラスが子育てをしていますが、2010年はちょっと変わった子育てを目撃しました。
もともとウミガラスの子育ては、一般の鳥と少し違っていて、巣は作らず、岩の上に1個の大きい卵を産み、そしてオスとメスが交代で卵を暖め、いっしょにひなを育てます。
今回お話しするつがいの卵は、抱卵中に岩棚から1メートルあまり下の岩の上に転がり落ちてしまいました。うまい具合に割れなかったためでしょうか、落ちた卵をメスだけが暖め続け、3日後にひなが孵化しました。そして、その後もメス1羽で育てています。オスは孵化に立ち会っていないためか、まったく子育てを手伝おうとしません。
孵化後5日目、子育てされていた岩よりさらに下の岩の割れ目に、ひなが逃げ込んでいるのを見つけました。そこで、オスがときどき戻って来る元の抱卵場所に移したところ、メスはすぐ気づいてひなのそばに行き、その後は、そこで子育てをしています。
しかし、オスはそばまで来ても、子に魚を運んでくることはなく、われ関せずというそぶりです。やはり、自分の子とわかる「何か」が欠けてしまったので、もう父親になるのは無理のようです。
ところで、この子育てには大きな難関がまだ残っています。ウミガラスのひなは約2週間という短い期間で巣立って海に入り、その後はオスのみが子の世話をするという習性をもっています。メスは子が巣立つと、仕事は終わりましたとばかりに、世話をやめてしまうのでしょうか。
じつは、水族園は野生状態とはちがって、メスがオスと子を残して遠くへ飛んで行くことができないので、そのうち子に見つかり、食べ物をねだられると与え、結局メスも子育てに参加することになります。
今回も巣立ちの後、メスが離れてしまっても、子がすぐにメスを捜し出し、結局そのままメスだけによる子育てが続くのではないかと期待しています。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 福田道雄〕
(2010年08月13日)
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