ニュース
南極レポート[4]採集終了──発送準備完了!
 └─2002/02/22

 ブエノス・ディアス! 2002月12日から始まったキングジョージ島のフィルデス湾での採集も2月17日に無事終了しました。天候がとても変わりやすく、朝晴れていても昼には強風が吹き荒れ、午後には雪が降るときもありました。ダイビングによる水中採集もきびしいのですが、採集を終えた後、陸上で冷たい風にさらされたときにはほとほとまいりました。

 採集した生物は、魚類ではノトテニア科のなかま(Trematomus newnesi)や、前回紹介したグリプト(Glyptnotus antarcticus)など、15種類ほど。採集した生物は陸上に設置した水槽で飼育し、水が汚れないように毎日水換えをくりかえしました。フレイ基地の関係者も、ふだんあまり目にすることのない極地の水生生物を一目見ようと入れ替わり立ち替わりやってきて、ちょっとした水族館となりました。

 さて、採集個体は日本に輸送しなければなりません。極地の生物を輸送するためには、水温を低い状態に保つために氷が必要です。しかし、今年にかぎって、この基地のまわりには雪や氷がまったくありません。そこでわたしたちはフレイ基地の協力で、基地から約4キロメートル離れた氷河まで足を運び、そこで氷を手に入れました。これでなんとか輸送の準備がととのいました。

 ここキングジョージ島から東京までは、飛行機を乗りついで約4日かかります。途中、チリのサンチャゴで生物の状態をチェックし、氷をさらに追加してから日本へ送り出します。みなさんがこのレポートをご覧になるころは、まだ生物は輸送の途中で、わたしたちもチリ国内にいます。採集個体が無事日本に到着し、みなさんに紹介できることを祈っています。

 それでは、このへんで。アディオス!!

写真上:潜水直前
写真下:容器を持って氷河へ

〔葛西臨海水族園調査係 中村浩司@キングジョージ島〕

◎南極に関する質問へのお答え

  前回に引き続き、みなさんからいただいた南極に関する質問にお答えします。

Q5──南極で生活すると体の生理的な変化っておこりますか? 異常に食欲が増すとか、眠くなるとか?

A5──目立った生理的変化はありませんが、いつもより空腹を感じるようです。寒いので体温を保つために体がカロリーを要求しているのでしょうか? それから、生理的変化ではありませんが、南極は大陸から孤立しており、人間も少ないので、インフルエンザなどのウイルスもなく、ほぼ無菌状態の環境にあり、風邪などにはかかりにくいそうです。

Q6──南極は、もともとどのような自然環境にあったのですか?

A6──太古、南極大陸はいまの位置にはありませんでした。ドイツの地球物理学者ウェーゲナーの「大陸移動説」によると、数億年前には現在の南極大陸をはじめ、世界中の大陸は「パンゲア」とよばれる一つの大陸で、その後、各大陸が分かれて現在の陸地をかたち作ったといわれます。南極半島で約1億年前のシダの化石が発見されていることから、かつては雨の多い森林があったものと思われます。

Q7──南極は大陸ですよね? ということは、もともと土があったんですか? あったとしたら、どのような土壌なんですか?

A7──南極大陸のほとんどは、一年中厚い氷におおわれているために土や岩が露出することがありませんが、わたしたちのいるキングジョージ島は南極の中でも暖かいところなので、夏のあいだは土壌が露出します。植物がほとんどないので、非常にやせた土壌です。気温があがると結構ぬかるんだりします。また、巨大な岩石や、鋭利なかたちをした石も多く見られます。

Q8──南極には、晴れも雨もくもりも雷も雪も……みんなあるのですか?

A8──南極にも晴れ、雨、くもり、雪があります。事実、今日(2月11日)も雨が降っています。わたしたちのいるキングジョージ島は南極といってもその「はずれ」にあり、南極のなかでも暖かいところなのです。いま、南極は夏。暖かい日には気温も5℃くらいまであがります。でも、夏とはいえ、ちょっと天気が悪くなると、すぐにその雨も雪に変わってしまいます。ただし、雷があるかどうかはわかりません。すくなくともわたしたちは雷に遭ったことがありません。天候に関していえば、南極はとにかく風の強いところです。

Q9──南極で見える星を教えてください。

A9──かの有名な南十字星が見えます。そのすぐわきには、にせ十字星が見えます。星の専門家ではないのでくわしいことはわかりませんが、カメレオン座や八分儀座とよばれる星座も見られるそうです。わたしたちの滞在中は南極の夏にあたり、白夜に近い状態なので、残念ながら星はあまりよく見えません。

Q10──オーロラについて教えてください。

A10──南極でもオーロラが見られるそうですが、残念ながらわたしたちは目にしたことがありません。あまり高緯度のところでは見えないようです。おそらく南緯60~70度付近がオーロラの見える範囲ではないかと思います。

 ※南極の自然についてもっと知りたい方にはこの本をお薦めします。『南極の自然誌』サンフォード A. モス著、どうぶつ社、税抜3,000円

〔葛西臨海水族園調査係 松山俊樹@キングジョージ島〕

(2002年02月22日)

◎これまでの「南極レポート」(2002年03月01日追記)
[1]出発直前──南極圏での採集・調査に行ってきます(2002年2月1日)
[2]南極前夜──成田からサンチャゴ、そしてプンタアレナス到着(2002年2月8日)
[3]南極到着!──プンタアレナスからキングジョージ島へ(2002年2月15日)
[4]採集終了──発送準備完了!(2002年2月22日)
[5]最終回──採集個体、無事到着(2002年3月1日)



ページトップへ