◎文化園四季折々
2006年11月19日、ツシマヤマネコのオスとメス各1頭が井の頭自然文化園に来園しました。オスは長崎県対馬の環境省野生生物保護センターから、メスは福岡県の福岡市動植物園からやってきました。
ツシマヤマネコは長崎県対馬に生息する野生ネコ科動物で、天然記念物に指定されています。野生個体は現在、70頭から 100頭ほどと推定され、絶滅の危険にさらされています。数が減ったのは、開発による生息地の減少、自動車の増加による交通事故、イエネコからの病気の感染など、人間がもたらした変化が原因と考えられています。
現在、多くの機関や専門家、それに地元の方々が協力し、ヤマネコが安心してくらせる環境を守る活動が進められ、それと平行して、交通事故にあった個体の保護収容や、施設での飼育下繁殖も行なわれています。当園ではツシマヤマネコに“近縁”のアムールヤマネコ(ツシマヤマネコと同亜種とする説、別亜種とする説など、諸説唱えられています)を飼育しており、韓国のソウルにある動物園から来園した4頭が今では20頭以上にふえています。こうした技術や経験をツシマヤマネコの飼育にも応用するつもりです。
2頭のツシマヤマネコが到着した11月19日の日曜日は雨でした。大型動物の輸送には専用の輸送箱やケージを用意しますが、ツシマヤマネコはイヌネコ用のキャリーケースに入ってやって来ました。毎日見ているアムールヤマネコにくらべると、少し小型で丸顔をしているように思えます。
園の外から来た動物は、健康状態をチェックするためにかならず動物病院で検疫をおこないます。キャリーケースを検疫用ケージにつなげると、オスは悠然と出てきましたが、メスは驚いたように飛び出してきました。オスは2002年生まれの4歳。一方、メスは今年生まれの若い個体なので、人生(?)経験から来る余裕に差があったのかもしれません。しかし検査の際、2頭とも職員に向かって激しく威嚇してくるのは、さすがにヤマネコです。
現在、2頭とも各種の検査をおこなっています、検査終了後には、新しい動物舎に移します。ただし、残念ながら入園者の方々にツシマヤマネコを直接見ていただくことはできません。というのも、将来、2頭を野生に戻す可能性があるからです。あまりに人間に馴れてしまうと、野生に戻された後、平気で車に近づいたり、農家で飼われているニワトリを襲ってしまうことも考えられます。飼育係も、必要最小限の接触にとどめなければなりません。
絶滅の危険がある野生動物を飼育下で繁殖させること、そして、そうした動物の現状を多くの人に知ってもらうこと──これらは今日の動物園が果たすべき大きな役割となっています。ツシマヤマネコの保護増殖事業に貢献できるよう、積極的に取り組んでいくつもりです。
〔井の頭自然文化園病院 野瀬修央〕
(2006年12月8日)
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