◎文化園四季折々
ジョロウグモは、北海道を除いて全国に分布する大型のクモ。「女郎」ではなく、高位の女官「上臈」(じょうろう)です。艶やかで優雅な?姿から名がついたのでしょう。晩夏から秋に目につくのは、5月頃孵化した子グモが急速に成長して成体になるためで、何年もかけて育つわけではありません。
ジョロウグモの巣(本当は捕獲装置なので“網”)をよく見てみましょう。網の前後にやや粗雑な網があり、「三重構造」になっているのが特徴です。まんなかの網の中央にクモがいますが、網の片隅に別の小さなクモを見ることもあります。じつは網の主は通常メス。小さなオスが居候しているのです。
クモのオスは、触角のような脚(触肢)に精子を蓄えてメスに渡します。これを「交接」と呼びます。しかし、体の大きなメスに正面から求愛すると、食べられてしまうこともあります。ハエトリグモなどは脚を上下させる求愛ダンスを踊りますが、ジョロウグモのオスはそんな優雅なことはせず、若いメスを探し、網の片隅に同居して交接のチャンスをうかがいます。
オスがメスに食べられるずに交接できるのは、メスが脱皮直後で動きが鈍いときと、メスが夢中で食事をしている時です。ニュースページの写真は、脱皮直後のメスに近づくオスですが、このメスは成体一歩手前の亜成体らしく、もう一回脱皮するのを待たなければなりません。
今の時期のメスは、成体になってもまだお腹が細く、スリムな体型ですが、秋が深まるにつれてふくよかになり、晩秋の産卵に備えます。その貫禄は、まさに秋の女王。しかし、産卵したメスはやがて死んでしまうので、女王様の華麗な姿を拝むことができるのは、ほんのわずかな日々なのです。
さて、身近にいながら、理由もなく嫌われてしまうクモ。私も子どもの頃は、昆虫図鑑の最後の方にあるクモのページは恐くて開けないほどでした。でも、その生態や行動は興味深く、昆虫とはちがった面白さがあります。
井の頭自然文化園では、特別展「なぜおぼれない? ミズグモや水生昆虫の呼吸法」にあわせて、クモの不思議をお伝えする講演会を開催します。日時は2006年9月23日(土・祝)の午後3時から。クモを好きな方はもちろん、嫌いな方も思い切って?ぜひ、おいでください。
写真上左:腹側から見たジョロウグモのメス
写真上右:脱皮したばかりのメスと,そのメスに求愛するオス(メスの背後にいる)
写真下:メス(亜成体)の巣に同居するオス(右上の小さな個体)
〔井の頭自然文化園教育普及係 井内岳志〕
(2006年9月15日)
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