ニュース
ヤクシカのくらしやすい環境は──動物舎での試行錯誤
 └─ 2024/09/26
 動物たちが快適にくらせるように、飼育係は飼育環境について常に試行錯誤をしています。動物たちのくらすエリアの床面には、さまざまな素材が使われています。コンクリート、土、砂利、砂、ときには藁を敷いたり……動物の種類や健康状態にあわせて選びます。

 井の頭自然文化園のヤクシカのくらすエリアには運動場と動物舎があり、これまで運動場の床面はゴム素材、動物舎はコンクリートでした。ヤクシカたちは日中も夜間も常に運動場と動物舎を自由に出入りができ、雨天時には屋根のある動物舎を使うことを想定していました。

以前の動物舎の屋外部分
(コンクリートの床面)
以前の動物舎の屋内部分
(コンクリートの床面の上に藁を敷いたところ)

 しかし、当園のヤクシカたちは、どれだけ大雨が降っても運動場で固まって動かず、動物舎に入ろうとしません。えさを動物舎の中に置いてみても、飼育係がいると警戒して入って来ようとせず、せっかくのスペースを使ってもらえないのは何とももったいないと感じました。

 「動物舎の床面のコンクリートが問題では……」と考え、そこから実験をしてみました。ヤクシカを動物舎の中に隔離する際に、「一部に藁を敷いたとき」「全面に藁を敷いたとき」「何も敷かないでコンクリート上で飼育するとき」と、異なる条件でヤクシカの動きを観察しました。

 その結果、飼育係が掃除に入るとき、ヤクシカたちは藁の上では運動場にいたときと変わらずのんびりした動きでしたが、コンクリート上ではかなりを警戒し、緊張具合が大きく異なりました。これは運動場のゴム素材や藁の上に比べて、滑りやすいコンクリートの上ではヤクシカが逃げたいときにスムーズに動けず、「怖い」という気持ちがあるのではと思いました。

 コンクリートの床面は掃除が容易で衛生面を保ちやすいメリットがありますが、この状況をチームで相談し、動物舎の床材を変えることにしました。ヤクシカたちがどんなときも安心して好きな場所を選べるように、動物舎の中も運動場と同じゴム素材の床にすることにしました。簡単にもとに戻すことができませんので、一部屋ずつ慎重に、ヤクシカの動きを確認しながら工事をしていきました。2021年、2022年、そして2024年にようやく最後の部屋も工事をおこない、すべての床がゴム素材になりました。

工事後の動物舎の屋外部分
(ゴム素材の床面)
工事後の動物舎の屋内部分
(ゴム素材の床面)

 今のところ効果は絶大で、飼育係が掃除をしているときも、雨が降ったときも、ヤクシカたちは好きなときに動物舎に入ってくるようになりました。また動物舎にヤクシカを隔離した際、足を痛める事例がよくありましたが、そういった怪我もしなくなり、足の負担を減らすという点においても非常によい効果がありました。

 もちろん、これで完璧な環境というわけではありません。床材を柔らかくしたことで、今後は蹄が伸びやすくなってしまう可能性もあり、注意が必要です。動物たちのくらしやすい環境にするために、常に試行し続ける必要があります。

 今回の工事に関しまして、動物園サポーターのみなさまからのご寄付を一部使わせていただきました(動物園サポーター制度についてはこちら)。この場を借りてお礼を申し上げるとともに、今後もみなさまのご支援のもと、動物のよりくらしやすい環境作りをおこなっていきます。

〔井の頭自然文化園飼育展示係 伊藤達也〕

(2024年09月26日)



ページトップへ