井の頭自然文化園水生物館では、かつて身近な水辺で普通に見られたアカハライモリを飼育し、展示しています。その展示水槽や裏の繁殖用水槽で観察されたイモリたちの興味深い姿をお伝えするアカハライモリ特集第9回です。
前回のこのシリーズでは、水草に産み付けられた卵が成長して孵化するまでをお伝えしました(
続々・新たな視点で見てみると[32]1つの細胞から1つの生命へ:アカハライモリの胚発生)。
孵化直後の幼生は全長が1センチほどで、カエルのオタマジャクシの頭を小さくしたような感じです。手足は発達しておらず、頭の後ろにフサフサとした外鰓(えら)が目立ちます。
全長約1センチ。基本的に底でじっとしているが、刺激に対して素早く泳ぐこともある
もう一つ目立つのが顔の両脇、いわゆる頬っぺたの部分から一本伸びるヒゲのようなもの。これはバランサー(平衡桿:へいこうかん)と呼ばれ、成長の初期にだけ見られます。体の平衡感覚を保つのに役立つと考えられているようです。
顔の左右に1本ずつ伸びているのがバランサー。平衡感覚を保つというよりも、
転がらないようにつっかえ棒の役目をしているように見える
全長約1センチの小さな幼生ですが、アップで撮影するといろいろと見えてきました。動画をご覧ください。孵化直後の頭周辺を拡大すると外鰓の中を勢いよく流れて行く血球が見えました。ウェブページ用に圧縮した画像では見づらいかもしれませんが、バランサーの中や眼球の表面にも血球が流れているのが確認できます。
孵化後4日で前肢が生えてきていますが、まだ小さくあまり役に立ってはいなさそうです。孵化後5日の映像は外鰓にイトミミズが引っかかり、バランサーがつっかえ棒のように働いているシーンです。孵化後6日には前肢がだいぶ発達し、不要となったバランサーが短くなっています。孵化後8日では前肢がしっかり機能していて、パランサーはほとんどなくなってしまいました。また、この頃からえさを食べ始めます。
近くに落ちてきた小さなイトミミズに前肢を使ってにじり寄り、勢いよく吸い込んで食べます。この頃の幼生の食事シーンはユーモラスで、えさを吸い込むと同時に体がその場で小さく跳ね上がります。あちらこちらで「ポーン」としている幼生たちを見ると心が癒されます。
【動画】前回卵の発生を撮影した個体を、引き続き孵化直後から8日後まで撮影した動画
次回は幼生の成長後半をお見せする予定です。
〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 三森亮介〕
(2019年07月21日)