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アナグマ、キツネ、タヌキの「ハズバンダリートレーニング」
 └─2017/11/24

 井の頭自然文化園にいらっしゃった方は、ニホンアナグマなど日本にくらす動物の運動場で、怪しい動きをしている飼育係を見たことがありませんか? それは私です。何をしているのかというと、ニホンアナグマ、ホンドギツネ、ホンドタヌキに「ハズバンダリートレーニング」をおこなっているのです。むずかしそうな言葉ですが、「動物の健康な飼育と人間の安全な作業を目的として、動物に自発的な行動を取らせるための訓練」のこと。次の上野動物園の記事もご覧ください。

・「トラとライオンのハズバンダリートレーニング実施中」(上野動物園)

 トレーニングを始めたきっかけは2つあります。1つはむやみな捕獲を避けるためです。たとえば診療や移動の際、動物を捕まえることがありますが、慣れていない動物は必死の抵抗をします。その結果動物に大きなストレスが加わるとともに、動物も飼育係もケガをするおそれがあります。

 もう1つは、日々の観察がしやすいように、じっとしていてもらうためです。トレーニングが成功すれば、ふだん見せてくれないお腹を見たり、口の中を確認したりすることによって、健康を維持しやすくなるはずです。

 しかし、動物園で飼育している動物の大半は野生動物です。トレーニングをおこないたい!と思ってもすんなり言うことを聞いてくれるはずがありません。

ターゲット棒に鼻をつけるアナグマ
体重測定中

 根気が必要だったのが、少しずつ慣らす作業です。動物は知らないものやいつもと違うことを極端に怖がるため、ゆっくり慣らしていかなければなりません。順番としては、①人が自分の空間に入って来ることに慣らす、②クリッカー音(合図になるカチカチという音)に慣らす、③飼育係がターゲット棒(動きを指示するための棒)を持っている状態に慣らす、④ターゲット棒に動物が鼻先をつけるようにする、⑤ターゲット棒に従って動くようにする、⑥体重測定用のカゴに乗るようにする、⑦体重計に置いたカゴに乗るようにする、⑧体重計のカゴに乗ったままじっとしているように慣らす──というふうに進めていきます。まず、えさを使って遠くから少しずつ訓練し、実際に目的の行動ができるよう慣らしていくことに、いちばん苦労しました。

 しかし、苦労の甲斐もあって、個体によって進行具合はさまざまですが、ニホンアナグマ2頭、ホンドギツネ1頭、ホンドタヌキ1頭は健康チェックと体重測定ができるようになりました。

 今後は治療や採血などができるよう、飼育係の指示で体の各部位を動物みずからが見せるようにしたり、体を触られることに慣らしたりするためのトレーニングを進めていきます。

 トレーニングは日時不定期でおこなっていますが、見かける機会がありましたら、どんな訓練をしているのか、私たちをじっくり観察してみてください。

〔井の頭自然文化園飼育展示係 森翔生〕

(2017年11月24日)


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