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続々・新たな視点で見てみると[1]──シェルター式ゆりかご:ミヤコタナゴの産卵
 └─2017/06/15

 井の頭自然文化園水生物館では希少淡水魚ミヤコタナゴの繁殖に取り組んでいます。タナゴのなかまは二枚貝の中に卵を産むので、そのためのカワシンジュガイを展示水槽に入れたところ、つぎつぎと産卵を始めました。

 硬い殻をもつ貝の中に卵を隠せば卵を狙う外敵も簡単には手が出せません。しかも卵は貝のえらの部分にとどまるので、貝が生きている限りいつでも新鮮な水が通ります。ミヤコタナゴの仔魚は未熟な状態で孵化し、そのまま硬いシェルターに守られたゆりかごで充分泳げるようになるまで過ごします。


メスは長く伸びた産卵管を貝の出水管に差し込んで産卵する

 タナゴのなかまが貝の中に産卵することは知っていましたが、糸のようにフニャフニャな産卵管をどうやって二枚貝の出水管(貝が外から取り込んだ水を吐き出すための管)に突っ込むのか不思議でなりませんでした。

 今回撮影した産卵の映像をスローで見てみても、水が噴き出しているはずの出水管にメスの産卵管が自然と吸い込まれていくように見えます。調べてみると、比較的しっかりした産卵管の根元部分を出水管に差し入れた状態で産卵すると、体液と共に卵が産卵管を通っていく圧力で残りの部分の産卵管も貝の体内に伸びていくとのこと。「吹き戻し」(縁日などで見られるピロピロ笛)と似たしくみです。


実際のスピードだと一瞬で終了してよくわからないが、スロー再生で見ると
フニャフニャな産卵管が貝の出水管に吸い込まれて行くように見える

  最初のシーンではメスが貝の中に産卵した後、オスが水管のそばで放った精子が煙のように見えます。2つ目のシーンは多くの魚が集中している展示水槽ならではの状況です。メスが産卵するとそばにいたオスたちがいっせいに貝に群がって放精しています。最後のシーンでは、よぉーく見ると産卵管を通って行く黄色い卵が一瞬だけ見えます。

 連載「新たな視点で見てみると」は、興味深い生き物のすがたや行動などを動画でお送りするシリーズ。筆者の前の職場である葛西臨海水族園発の連載記事として2007年7月に始まりました(リンク)。

 担当生物も大きく変わり、心機一転「続々・新たな視点で見てみると」として連載を再開します。興味深いネタが撮れたときだけの不定期連載ですが、よろしくお願いいたします。

〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 三森亮介〕

(2017年06月16日)


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