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特設展の変わり者、キクメハシリグモ
 └─2014/09/05

 井の頭自然文化園水生物館では現在、特設展「里山のウェットランド──田んぼとため池でくらす生き物」を開催しています。
 カエルやメダカ、水生昆虫などはおなじみの生き物たちですが、今回の展示にはちょっと見慣れない生き物も展示中です。以前の記事の中でさりげなく紹介されている「キクメハシリグモ」。

「7/8-9/21水生物館特設展示」(2014年07月09日)

 おそらくこの「キクメハシリグモ」の名を見て「あ〜あの生き物か」とわかった方はほとんどいないのではないでしょうか。写真を見たとしても比較的有名な「アシダカグモ」と思われた方もいたはずです。

 そもそも田んぼとため池の生き物でなぜクモが展示されているのか、という疑問もあるかもしれません。なかなか紹介される機会がありませんが、じつは水辺はクモの宝庫で、水辺とクモとは切っても切れない関係なのです。

 このキクメハシリグモも水辺に依存するクモの一種で、ミズグモのように完全に水の中で生活することはしませんが、ときには水中にもぐることもあり、小魚やエビなども捕らえます。

 多摩動物公園でも本種に近縁な大型のクモ「イシガキアオグロハシリグモ」という渓流にすむクモが展示されていますが、キクメハシリグモはそちらとは対称的に、水の流れがほとんどない池や用水路を好みます。

 そのため、人里に近いところでも見つけることができ、井の頭池にも多数の個体が人知れずくらしています。人知れずというのも、最近まで全国各地に生息していることが分からなかった不遇のクモだからです。理由は「アシダカグモ」と見間違われていたことや、夜間8時くらいから活動していて気がつかれなかったことも大きいようです。

 特設展では水にもぐるようすや魚を捕らえるところをお見せするつもりだったのですが、会期が始まって以降、展示の個体はほとんどを陸地ですごしているため、なかなか披露できずにいます。生き物の展示の難しさを感じるばかりです。

 ご来園の際に水面での活発な動きを観察することはなかなか難しいかもしれませんが、「東京の都市部にもこんなに大きいクモがいるのか」と認識を新たにしていただければ幸いです。

写真:水中から出てきたキクメハシリグモのメス

〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 渡辺良平〕

(2014年09月05日)



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